本連載は、企業会計の初心者の方や企業会計が苦手な方向けの、専門用語の知識不要の企業会計入門です。第5回は、高品質な商品を格安で提供して急成長を遂げているコストコホールセール(以下、コストコ)のビジネスモデルを紹介します。コストコのビジネスモデルを紐解くことにより、安定的に運転資金を確保することが、企業が成長するために必要であることがわかります。

仕事の合間のコーヒーブレイクに読んで頂ければと思います。

■驚愕の急成長を成し遂げているコストコ

「安かろう悪かろう」という言葉があります。値段が安いものは、それ相応の品質なので粗悪品が多いという意味です。ですが、世の中には高品質にもかかわらず安値で販売している店舗があります。

コストコは、その代表例と言えます。同社は、アメリカを本拠地とする倉庫型の店舗によるスーパーです。世界に700店を超える店舗を構え、国内には25店舗あります。1983年に最初の店をオープンし、わずか6年未満で売上高を30億ドル(約3,000億円)とし、2016年8月の決算では売上高を1,187億ドル(約11兆9,900億円)とする驚愕の急成長を成し遂げている企業です。

■熱狂的なファンが多い

コストコは高品質な商品を格安で提供しているとあって、多くの熱狂的なファンがいます。インターネットでコストコを検索すれば同社の商品に関する口コミ情報の多さに驚くことでしょう。ネットで同社の書き込みを見ると、「一度コストコで買った商品を他の店で買うと損した気分になるので、コストコで再販されるまで待っていた」と、自分が欲しい商品が同社で再販されたことに歓喜の声をあげている利用者もいます。

単なる商品の紹介にとどまらず、商品のレビュー、お勧め商品ランキング、食材であればレシピの紹介やダイエット情報まで多種多様な口コミ情報があります。
お勧め商品ランキングに至っては、インターネット、ブログ、コストコユーザーなどのあらゆる情報をもとにしたトップランキング1位から100位の商品を紹介しているサイトもあります。

■会員制が安値を実現するカギ

コストコが多くの熱狂的なファンの獲得に成功している最大の要因は、高品質な商品の品揃えであるにもかかわらず安値で提供し、高い顧客満足につなげていることです。どうして、安値で高品質な商品を提供しながらも利益を出すことが可能なのでしょうか?最大の理由は、会員制にしていることにあります。
年会費を支払って会員にならないことには、同社の店舗では買い物が出来ないのです。会員ではない友人・知人を同伴して入店することは可能としていますが、商品の購入は会員のみに限定するという徹底ぶりです。

ここで、会員制にすることの利点について考えてみましょう。第3回の連載で、営業活動はキャッシュアウトに始まって、キャッシュインで終わると述べました。通常の小売業であれば、営業活動サイクルは、このような流れになります。

営業活動サイクル・・・「キャッシュアウト」→「仕入れ」→「在庫」→「販売」→「キャッシュイン」

販売する商品を仕入るために、先ずはキャッシュを使うことから始まり、最終的にキャッシュを回収することの繰り返しです。在庫は販売することでキャッシュ化されるので、在庫として保有している間はキャッシュが減った状態となるのです。

商品が販売されるまでの間も、店舗の運営には経費がかかります。商品が売れるまでの間にキャッシュが枯渇すれば、たちどころに経営の危機です。キャッシュが枯渇することの怖さは第1回の連載でも述べています。

一方で、コストコでは会員制の導入により、仕入れによるキャッシュアウトより先に年会費のキャッシュインがあるので、年会費が商品を仕入れるために必要となる運転資金の財源となります。しかも、年会費を支払った会員は、同社で買い物をしなくてはならなくなる心理的な効果もあります。

同社のホームページによれば、ビジネスメンバーは年会費3,850円(税抜)、個人向けのゴールドスターメンバーは年会費4,400円(税抜)となっています。ビジネスメンバーはすべての事業所、自営業、非営利団体、官公庁等の事業主、または事業主に相当する方が対象とのことです。クレジットカードによる年会費自動引き落としサービスも提供しており、自動的に安定したキャッシュインを獲得する仕組みを構築しています。
年会費は実質的に経費を必要としないので、ほとんどが儲けとなります。言い換えれば、年会費でしっかりとキャッシュを獲得して、利益にもしているのです。なので、店舗で販売する商品ではそれほど儲けなくて良いことになります。

前述したとおり、同社の事業規模の拡大は目を見張るものがあります。事業規模の拡大に伴い仕入れ量が大きくなる分、同社は仕入先に対して優位な立場で交渉ができることになります。そのため、大量に安く仕入れ、一層の安値での販売が可能となるのです。

■不断な経営努力のたまもの

コストコの企業哲学は「常に経費を節約し、その分を会員の皆様に還元していこう」です。例えば、店内では段ボールのままの陳列とし、オペレーションコストを抑制しています。このような不断な経費削減も商品の安値を実現できている要因となっています。

以上、述べたことからコストコの急成長を支える原動力を以下のように整理ができます。
・年会費収入を高品質な商品を仕入れるための財源としている。
・年会費で利益を獲得しているので、販売する商品の利益は少なくても経営の継続が可能となる。
・結果として、高品質にもかかわらず安値で販売することを実現している。
・高品質な商品を安価で提供することが顧客満足となり、熱狂的なファン獲得につながっている。
・熱狂的なファンが継続利用することで安定的な年会費収入となる。
・さらに、熱狂的なファンの口コミによる会員数の増加が年会費収入の増加となる。

このような好循環を生み出して、運転資金のためのキャッシュを安定的に確保し、顧客の囲い込みにつなげていることがコストコのビジネスモデルの特長と見ることができます。

(2017年5月7日時点の情報にもとづいています)

専門家:中野真志
明治大学卒業。中小企業診断士、社会保険労務士、宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。
東京都中小企業診断士協会 城北支部所属、ビジネスイノベーションハブ株式会社 取締役、シュー・ツリー・コンサルティング パートナー、イー・マネージ・コンサルティング協同組合 組合員、日本マーケティング学会会員、人を大切にする経営学会会員。
活動分野はIT、ビジネスモデル、デザイン思考、地域活性化。
大手システム会社を6年間勤務した後、独立してフリーランスで活動、数多くのプロジェクトに参画。ITを有効活用した中小企業の経営革新を実現するために、ビジネスモデルの研究やコンサルタント、執筆、セミナー企画、セミナー講師などの活動を行う。地域誘客プロジェクト立ち上げや商店街支援など、地域に根ざした活動もしている。 主な執筆、小さな会社を「企業化」する戦略(共著)、新事業で経営を変える!(共著)、「地方創生」でまちは活性化する(共著)、地方創生とエネルギーミックス(共著)。

ノマドジャーナル編集部
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