外国人旅行者の急増や2020年の東京オリンピック開催に向け、規制緩和の議論が進められている「民泊」。長年にわたりIT業界のインキュベーション支援に携わってきたアットマークベンチャー株式会社CEO・代表取締役社長の大津山訓男さんは、ビジネスシーンに民泊を生かしていくための活動を展開している。

民泊がもたらすオープン・イノベーションは、どのような価値を生むのか。後編では、日本における民泊の課題や今後の展望について、詳しくお話を伺った。

「ワンルームマンション型」民泊の課題

Q:ベンチャーやスタートアップ企業にとっての貴重なビジネスの場である一方、民泊の活用に対しては国や自治体からの期待も高まっています。

大津山訓男さん(以下、大津山):

そうですね。一例としては、災害時の避難先やボランティアの宿泊先として期待されています。

4月の熊本地震では、九州の旅館・ホテルと民泊ボランティアが連携して活躍しました。私は佐賀で旅館組合長を務める方と親交があるのですが、彼は「こんな非常事態だから」ということで被災者を受け入れるために活動していて、そこに民泊コミュニティのメンバーもボランティアとして参加していました。東日本大震災では、IT業界関連の約300名のボランティアが現地に向かった際に宿泊先として民泊を活用していたという事例もあります。

旅館業界と民泊、両方の力を合わせて対応していこうという機運は、災害時だけでなくイベント民泊でも盛り上がっていますね。

Q:「旅館業界と民泊」は、対立軸にあるものではないんですね。

大津山:

もともと、世界の民泊はそうなんですよ。海外では「一軒家シェア型」が全体の7割を占めています。ホテル需要に追いつかない部分をうまく吸収でき、民泊の仕組みが機能していることで、瞬間風速的な需要を地域全体で受け入れることができんです。これはホテルにとってもプラスに働くんですね。また、一軒家シェア型で住民が「ホスト」として機能することで、トラブル防止にもつながっています。

日本の場合は、「マンションワンルーム型」が全体の7割なんですよ。海外と逆転してしまっている現状があります。マンションワンルーム型はホストがいないケースも多く、周辺住民とのトラブルも発生しがちです。そのため地域で民泊を好意的に受け止めるということが難しくなる可能性がある。これを変えていかなければ、社会全体で民泊のコンセンサスを形成することも難しくなるかもしれません。

地域全体に経済効果をもたらすスキーム作りを推進

Q:旅館業界と民泊が連携することで、具体的にどのような効果が生まれるのでしょうか?

大津山:

課題はあるものの、旅館業界と民泊の両者が「人を助けたい」「地域の役に立ちたい」という思いでアクションを起こす事例は増えてきていますし、チャンスも広がっています。例えば、アジアに進出した経営者で作る「和僑会」というコミュニティがあります。家族ごと海外に移住したオーナー社長の集まりで、アジア17カ国に広がっているんですよ。その人たちを札幌に招いて、旅館・ホテルと民泊に分散して地域全体に経済効果をもたらすような取り組みを考えているところです。かつてのIBMでのイベント民泊ノウハウを生かしたスキームですね。

Q:イベント型民泊によって旅館やホテル、観光産業全般も潤い、経済効果を地元に還元できるということですね。

大津山:

はい。対立軸を生むのではなく、共存共栄できるやり方を模索することが重要だと考えています。今、国内で進んでいる民泊のやり方は、「特定の人だけが儲かる」構図になっていることも多いんです。同じマンションでも、「民泊をやっている人」「やっていない人」が混在している状況はフェアではありません。国も、そうした部分は規制したいと言っていますね。

海外のような「一軒家シェア型」を増やすためには、持ち家がある私たち団塊世代を中心に、「シニアの民泊運営モチベーション」を高めていきたいですね。シニアの力を有効活用できますし、経営やビジネスにおける経験を語ってもらうことで宿泊者が得られるものも多いでしょう。シンガポールや香港に行くとホテルが取れないことが多くて民泊を利用するんですが、現地ではシニア世代の家に行く機会が多いんですよ。

「シニアの知見・スキル」を民泊で生かす

Q:シニアの知見やスキルを生かす意味でも、民泊は有効な「橋渡しの場」になるということですね。

大津山:

先ほどもお話したように、私たちの世代にはIBMで1万人、日立では10万人のOBがいます。ビジネスの知見・スキルを持っていて、持ち家があって、時間的な余裕もある人たちです。まずはそういう人たちにモチベーションを感じてもらえるよう、取り組んでいきたいと思っています。

若い人たちには「シニアはわがままで使いにくい」という抵抗があるかもしれませんが、それを乗り越えられるのが民泊ではないかと思うんですよ。ベンチャーやスタートアップの若い経営者が、業界や国籍を超えて集まり、シニアの知見を上手に活用しながら事業計画や開発計画を練っていく。そんな場所が、これからは増えていくはずです。

 

取材・記事作成:多田 慎介・畠山 和也

専門家:大津山 訓男

IBM事業部長を経てCCC益田氏、PASONA南部氏、ウェザーニューズ石橋氏、ADKなどの出資で、アットマークベンチャー株式会社を起業。起業塾を開催し、大企業新規事業キーマンと起業家を毎月マッチングで120社を支援。12社のIPOを成功させる。
2010年より国交省MICEアドバイザーとしてアジア圏MICEサミットを主宰。東日本大震災以降は社会貢献活動にも注力し、団塊世代や自立を考える若者、シングルマザーのために民泊ホストを支援。
AIRBNBを学ぶ体験型ゲストを迎えスーパーホストとして大田区や福岡、愛媛、京都でコミュニティ組織化。またインバウンド経営戦略塾講師を務め、地域活性化に向けて観光庁や地域観光協会、インバウンド業界キーマンとともに活動中。