【連載第2回】
2016年4月からスタートした「電力自由化」ですが、日本に先駆けて自由化を進めた国が多くあります。今回は『かんたん解説!!1時間でわかる電力自由化 入門』の著者である江田健二さんに電力自由化が日本より進んでいるアメリカ、EU、さらにアジアの実情について解説していただきました。
記事のポイント
●アメリカの電力会社は3000社!
●EUでは巨大総合エネルギー企業が活躍
●これから伸びる市場・アジア
●日本の電力市場規模は7.5兆~8兆円に
*本連載は2015/12発行の書籍『かんたん解説!!1時間でわかる電力自由化 入門(著:江田 健二)』の内容をもとに再編集しお届けします。
前回までの記事はコチラ
世界の電力自由化と日本の電力自由化を理解する
世界各国の電力自由化はどうなっているのか
今回の電力自由化が具体的にどのようなものかについて説明する前に、既に自由化が進んでいる海外における電力自由化の状況はどうなっているのか見ていきたいと思います。
◎アメリカの場合
アメリカでは日本より10年ほど早い時期から電力自由化が行われているのですが、州ごとに法律が違うので、各州で独自に自由化が実施されています。
最も自由化が進んでいる州の一つは、テキサス州です。テキサス州には、売り上げで全米7位までになった総合エネルギー会社のエンロンがあったり、テキサス出身で共和党のブッシュ大統領(当時)が積極的に電力自由化を促進したからです。その影響で今でも共和党が強い州は自由化が進んでいます。
現在はアメリカ全体の約3割の州で自由化され全米で電力会社が3000社ほど存在するという、激烈な競争になっています。自由化された州では、激しい競争が行われてきたおかげで、消費者にとって魅力的な多様な料金プランやサービスが生まれています。
また、自由化にともなって、電力の消費データを活用した様々なIT企業が生まれています。これは既に撤退してしまいましたが、グーグルが「Googleパワーメーター」という消費電力量の計測アプリを開発したり、それ以外にも様々なベンチャー企業が電力消費データを使って新しいビジネスをしていこう、という気運が非常に高まっています。
ただし、自由化したあとに前出のエンロンが倒産し、その影響もあってか、カリフォルニアで大停電が起こり、自由化はもうこれくらいでいいのではないか、と少し停滞気味になっている印象があります。ですから、今後も全ての州が自由化を推進していこう、というよりは、自由化を進めたいと考える州は積極的に行い、それ以外の州はどちらかというとあまり自由化に積極的ではない、という状況になっています。
アメリカの電力自由化は、このように国全体として足並みがそろっていないので、電力事業がやや複雑になってしまっています。例えば、テキサス州からどこか別の州に引っ越したとしたら、その州でまた新しい契約をする必要があったり、希望する電力会社のサービスが受けられない、といったことが起こってしまうのです。
世界の電力自由化事情―アメリカ
しかし、自由化のおかげで前述のように、多くの電力事業を行う企業が生まれましたし、電力事業周辺でも多くのベンチャー企業が生まれてきている点は、アメリカにおける電力自由化のよい結果と言えます。また、それらのアメリカ系企業が今回の電力自由化に伴い、日本の電力事業市場に進出しようとしていますので、日本企業も油断していられないという状況です。
◎EUの場合
電力自由化は、今のところアメリカよりもEUの方が進んでいます。EUは、各国が細かいルールなどを含め足並みをそろえて自由化を推進しているためです。
EUではイギリス・ドイツ・フランスを筆頭に多くの国が自由化を実施していますが、これ以外にもイタリアやスペイン、また北欧諸国などでも自由化が進んでいます。
中でも注目されているのはドイツです。ドイツでは自由化に伴って非常に多くの電力会社ができていますし、電気だけでなくガスやその他のエネルギーも一手に扱う総合エネルギー会社も生まれています。また太陽光や風力などの再生可能エネルギーの利用も進んでいます。そういった意味では、電力自由化を含むエネルギー産業の活性化においてはドイツが一番積極的で進んでいると言えるでしょう。また、イギリスでも電力自由化により、多くの電力会社が生まれましたが、競争の結果、現在6社くらいの電力会社に電力事業がほぼ集約されています。
EU諸国では自由化したあとに、多くの企業が電力事業に参入して、様々な料金プランができました。最近では、そうした企業同士の合併や統合が進んでいます。その結果、電気だけではなく、ガス・水道、インターネットサービスなどをまとめて消費者に提供する総合エネルギー企業が誕生しています。EUでは今、こうした大規模な総合エネルギー企業が国境を越えて多種多様なサービスを提供するようになっており、市場全体、経済全体において非常に大きな存在感を示すようになっています。
世界の電力自由化事情―EU
わかりやすくお店に例えると、最初小さな果物屋さんがあり、それがどんどん統合されて大型食品スーパーになり、最後には食品だけではなく、豊富な種類の商品を売っている大きな商業施設のようになっていったと想像していただければよいでしょう。
このように、EUではもはや世界レベルで戦えるような総合エネルギー企業が複数誕生しているので、その企業が日本市場、アジア市場にどんどん進出してくる可能性は十分にあると思います。
電気料金に関しては、日本の「FIT」(フィードインタリフ:再生可能エネルギーの普及を図るため、再エネで発電された電気を電力会社に一定期間、固定価格で買い取ることを義務づけた制度)のように、再生可能エネルギーを国民負担で買い取りましょうという制度導入の影響もあってか、自由化以降もあまり下がっておらず、むしろ上がっている国や地域もあります。
(次回に続く)
◎本稿は、書籍編集者が目利きした連載で楽しむ読み物サイトBiblionの提供記事です。
【こちらもオススメ】
・大前研一「”位置情報”で安全安心。人身事故削減からホームセキュリティまで」(2016.7.4)