【連載第3回】

2016年4月からスタートした「電力自由化」。今さら人に聞けない「電力自由化とはなにか?」から、電力自由化によって拡大する8兆円市場の可能性、総合エネルギー企業出現の未来予測など、電力自由化を取り囲む周辺事情を、ステップを踏んで分かりやすく解説していきます。 連載第3回では、日本の電力自由化が遅れたのは問題だったのか? なぜ今、電力自由化に踏み切ったのか? その裏事情に迫ります。

記事のポイント

● 日本が電力自由化しなかったワケ
● なぜ今「電力自由化」なのか?
● 躍進する「新規参入電力会社」

*本連載は2015/12発行の書籍『かんたん解説!!1時間でわかる電力自由化 入門(著:江田 健二)』の内容をもとに再編集しお届けします。

前回までの記事はコチラ

●連載第1回:電力会社の競争がないからこそ発展できた日本?

●連載第2回(前編):成功?それとも失敗? 世界の電力自由化事情を比較する

●連載第2回(後編):アジアの電力は今後の需要拡大に期待 日本の電力関連企業にとっても魅力的な市場

自由化が遅れたのは問題だったのか?

ここにきてようやく日本でも電力の小売全面自由化が行われたわけですが、世界各国がこれまで積極的に自由化を進めてきたのに、あまり進めてこなかった日本の政策が問題だったのかというと、必ずしもそうとは言えません。

本連載の1回目記事で述べたように、現在のような電力事業の体制になったのは日本が敗戦してほとんど何もない時期であり、電力事業体制の設立の背景には「これからの日本は、国を挙げて産業を育てていかなくてはならない」という国家政策がありました。

復興を進め産業を育てようとするとき、経済や産業の基盤となるエネルギー、特に電力が安定的に供給されるということは非常に重要なことであり、また高度経済成長を支えるためには、電力会社同士の競争がなく、安定的に電力を供給できる地域独占体制というのはとても効果的でした。つまり、日本の電力会社の地域独占体制は、産業を育てるにはある意味非常に良い形態だったのです。

地域独占をすることによって、各電力会社に余力ができ、長期的な設備投資や供給責任を持った安定供給が行われ、トヨタやホンダなどの自動車産業、鉄鋼産業、またパナソニックやソニーに代表される家電産業など、様々な分野の企業が安心して工場で製品を製造することができたわけです。

そうした電力事業体制のおかげで、日本では常に品質の良い電力が供給され、大規模な停電もほとんど起こりませんでした。他のアジア諸国だと、電力事業体制の基盤が非常に弱いので、頻繁に停電が発生しています。工場などは、生産中に頻繁に停電が発生すると製品の質にも影響が出てしまいますので、死活問題です。

品質のよい電力を安定的に供給してきたということは、日本経済全体にとって非常に効果的なアプローチだったと言えます。海外に比べて電力自由化が少し遅れているように見えますが、それ自体が一概に悪かったとは言えないのです。

なぜ今「電力自由化」なのか?

では、なぜ今電力自由化なのか、ということについて考えてみましょう。
現在の世界経済はグローバル化が進んでいます。例えば、トヨタの自動車は、日本だけでなく、アメリカやアジアなど世界各国の工場で生産され、販売されています。ホンダや日産などの国内のライバル企業だけでなく、メルセデス・ベンツやBMWなど海外企業とも顧客の獲得を争っていかなくてはいけない時代になっています。

その中で、日本企業が世界のライバル企業との戦いに勝ち残っていくためには、これまでのように品質のよい製品を造っていれば良い、という発想から脱却し、今までなかった革新的な技術やサービスを生み出す力が求められるようになってきました。
もちろん経済や産業の発展にとっては、電力を安定的に供給するということは引き続き重要なことなのですが、それよりも自由化することによって、アメリカのように様々な異業種企業が電力事業に参入するチャンスが増え、それまでにない発想や異業種交流が生まれ、新しい製品やサービスが開発される。それによって、経済全体が活性化することが重要なのではないか、という考え方が日本でも広がってきたのです。

例えば、かつて電電公社が独占していた電話事業が民営化され、その後携帯電話が普及し、スマートフォンが出てきて、今では固定電話も必要ないくらいの急激な通信産業の変革が起きました。同時にインターネットの発達で多くのサービスが生まれました。今では、海外に住む友達とフェイスブックやLINEを使って気軽に会話することがあたりまえになりました。そうした流れと一緒で、電力産業においても、8兆円近くもあるマーケットを開放することによって、何か新しいことをやってみよう、と次々と企業が参入してくるでしょう。そこでお互いが刺激し合うことで、新しい技術やサービスが生まれ、電力産業全体の多様性が高まることが期待されています。

電力自由化によって経済全体が活性化する!

もう一つの理由は、これまでのように特定の電力会社が独占していたことによるメリットが減ってしまったということがあります。
発電技術も、昔は大規模な火力発電所や水力発電所などが必要で、大手電力会社でないとそれらを造れないという事情がありました。しかし、最近では太陽光発電や風力発電、また地熱やバイオ燃料(バイオ燃料:生物体(バイオマス)の持つエネルギーを利用したアルコール燃料や合成ガスなどの燃料。)などを使った比較的小規模な発電設備が増えてきています。

また、蓄電の技術も発達してきて、さらに、それをコントロールするITもどんどん発達してきたので、電力会社が長い時間をかけて大きな発電施設を造る必要性が薄くなってきたのです。むしろ、多くの分散型の小さな発電システムを造ってその電気を融通し合ったほうが、非常におもしろい発電の技術ができたりするのではないか、という考え方が広がってきました。したがって国も産業界も、今このタイミングで自由化したほうが日本にとっていいのではないか? と考えるに至ったというわけです。

躍進する「新規参入電力会社」

今回の電力自由化では、「新規参入の電力会社」(小売電気事業者)というのがキーワードになってきます。新しい電力会社の多くは発電や送電をする会社ではなく、あくまでも売電、みなさんに電気を売る会社だと思っていただければよいです。こうした電力会社の登録が、今どんどん増えています。数年前までは30~40社ほどだったのが、今や登録件数で約800社。近い将来1000社ほどになるでしょう。

電気の小売事業にはすでに大手ガス会社や石油元売りなどのエネルギー系、商社系の大企業が参入していますが、そういった大企業から中小企業まで規模はさまざまです。登録自体はとても簡単にできてしまうので、「社員が10人くらいで、太陽光発電をやっています」といった小さな会社も登録しているでしょう。また通信関連、小売関連、生協のようなコミュニティ系など、様々な分野の会社がひしめいています。これからはIT系企業が増えていくかもしれません。

ではその大企業から中小企業まで約800社がすべて一般の家庭などに向けて電力の販売を行えるかというと、そこは今議論されているところです。消費者保護の観点から、登録はしているけれどこの会社は企業体力的に難しいだろう、というところが500~600社あるからです。今、経済産業省など国側も制度の見直しをしています。

例えば、タクシー会社をやりたいと800社が手を挙げたにもかかわらず、そもそも車を持っていないような会社があるようなので、ちゃんと車を持っているかどうかチェックする、つまりきちんと販売する電気を調達できるのかどうかや、お客さんの問い合わせに対応できる組織があるかどうかなどを厳しくチェックしている、という状況です。そこで多くの会社がふるいにかけられて、新しい審査を通過できる会社は、おそらく100~200社程度になってしまうでしょう。

新規参入電力会社の全体像

ただそれでも、100社それぞれが各社料金プランを10個作ると、それだけで1000の料金プランが出てくることになるので、現在に比べて選択肢が非常に増えることになるはずです。
新規参入の電力会社の中には、一般家庭への販売は何かと手間やコストがかかるので「うちは一般小売はやりません。法人だけに限定してやります」というところや、「この地方のこういうコミュニティだけに限定して売ります」といったところが出てくるでしょう。全国規模で大々的に販売を行いますという会社は、現実的には限られてくるのではないでしょうか。

例えばトヨタ、出光、丸紅や、ソフトバンク、NTTドコモ、KDDIなどです。また楽天やLINE、ヤフーなどのIT系企業の参入も考えられます。販売網や顧客にアプローチする方法がないと難しいので、全国規模で展開する電力会社は、数十社程度になると思われます。

(次回に続く)

◎本稿は、書籍編集者が目利きした連載で楽しむ読み物サイトBiblionの提供記事です。

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