【連載第6回】
2016年4月からスタートした「電力自由化」について、図解も交えて分かりやすく解説する本連載。今回は、電力自由化に対して私たちはどう対処したらよいのか? について『かんたん解説!! 1時間でわかる電力自由化入門』の著者、江田健二さんに話していただきました。
記事のポイント
●電気料金が「最適化」される時代
●私たちは電力自由化にどう対処すべきか
●生活スタイルの確認と見直しを
●電力会社を賢く選ぶ
*本連載は2015/12発行の書籍『かんたん解説!!1時間でわかる電力自由化 入門(著:江田 健二)』の内容をもとに再編集しお届けします。
前回までの記事はコチラ
●連載第2回(前編):成功?それとも失敗? 世界の電力自由化事情を比較する
●連載第2回(後編):アジアの電力は今後の需要拡大に期待 日本の電力関連企業にとっても魅力的な市場
●連載第3回:電力自由化はまだ道半ば 新しい審査で電力会社はどれくらい淘汰される?
●連載第4回:自由化はメリットばかりじゃない 料金をお得にするには「知る力」が必要
●連載第5回:ビッグデータによる新たなビジネスチャンスも 参入企業のメリット・デメリットについて考える
電気料金が「最適化」される時代
今回の電力自由化は、私たちの生活にとって多くのメリットがありますが、一方でデメリットもあります。それを正しく理解することが非常に重要です。
電力自由化=電気料金が下がるのかというと、必ずしもそういうわけではありません。競争が激しくなって値引き合戦が起こるので、全体として見れば下がるのですが、新たに生まれてくる様々なサービスの恩恵を受けられる人もいればそうでない人も出てきます。全体的に電気料金が下がって、みんなハッピーというわけではないのです。
アメリカやヨーロッパの例を見ても、みんながみんなハッピーというわけではありません。今まで割を食っていた人は得するかもしれませんが、得していた人の電気料金が高くなってしまう可能性もあります。
つまり「自由化=料金が下がる」というよりは「自由化によって電気料金が最適化される」、つまり全体的に見れば前よりも適正な値段配分になるといった方が考え方としては正しいかもしれません。
一方、企業目線で考えると、自由化によって大きな市場が生まれる、新規参入企業にとってビジネスチャンスが広がります。これは事実ではありますが、長い目で見ると、社会構造の課題もあり、慎重にすすめていく必要があります。
日本は今後人口が減少する傾向にあるので、電気を使う電化製品の種類が増えていくとはいえ、国全体の電力消費量自体がそれほど伸びるわけではないからです。
例えば携帯電話市場やインターネット市場は、全く市場のないところに一気に新しい市場、需要ができて、極端な話、参入すれば誰もが儲かるといった状況でした。しかし電力の自由化では、そもそも需要に伸びのないところに参入していく、つまり同業同士の顧客の奪い合いになるので、しっかりと戦略を練って、ターゲット顧客を定め、どこと協力体制を組んで魅力的なプランを作るのかを、しっかりと考えていく必要があります。
電力自由化によって、これから社会全体に様々な変化が起こります。
既に新しいサービスや今までになかった付加価値サービスなどが生まれつつありますが、今後そうした新サービスは益々増えていくはずです。それによって日本経済が活性化し、一般の人たちの生活が今よりも豊かなものになるでしょう。
とはいえ、単に電気料金が下がる、電力会社の選択肢が増える、ビジネスチャンスが広がるといった表層的な事象だけに注目するのではなく、その裏側にある様々な社会的・経済的な変化や変革、新しい動き、そういったことに注意しながら行動していくことが大切だと思います。
私たちは電力自由化にどう対処したらいいのか?
電力自由化によって起こる様々な変化、その変化に私たちはどう対処、対応したらよいのでしょうか?
まずは再度、自分たちの契約内容を見直すことをお勧めします。これを機に、自分たちの電力の買い方や使い方を見直し、電気利用の無駄をなくすことを考えてみましょう。
そのためには、自分たちが普段支払っている電気料金をきちんと把握することが重要です。
まずは毎月の電気料金の明細書を見て、契約内容や電力使用量などをもう一度確認してみましょう。できれば、過去1年間程度の電気料金を調べることをお勧めします。
冬と夏など季節によってどれくらい変化しているのか、1年間でどれほど電気を使っているのか、それらをしっかりと把握することが大切です。
1年分の電気料金を記録、保存している方はそれを見ればよいのですが、記録していない人は、今、各電力会社が過去1~2年分の電気料金データを見られるサービスをネット上で始めているので、そちらを利用するとよいでしょう。
東京電力では「でんき家計簿」という名称で運営しています。東京電力のインターネットサイトから登録すれば、過去の電力消費情報を簡単にグラフで見ることができます。当該年と前年の月ごとの電気料金の違いもグラフで一目瞭然なので大変便利です。
まずそうやって自分たちの電力使用状況をしっかりと調べましょう。
今後電力会社を替える場合、新しい電力会社から「これまで年間にどれくらい電気を使っていましたか?」「夏と冬ではどれくらい電気料金の差がありますか?」などと聞かれる可能性もあります。それが分かれば新しい電力会社も、「では、こんな料金プランがいいですよ」と適切なプランを提案してくれるでしょう。
消費者側にとっても自分たちの電力使用状況を詳しく把握していることによって、それが交渉材料になるかもしれません。まず現状を把握した上で、自分たちに合った電力会社やプランを選ぶことが大切です。
生活スタイルの確認と見直しを!
「現在の電力消費状況を確認、把握する」ことに加えて「生活スタイルの確認および見直し」も重要なポイントです。
先ほど述べた「でんき家計簿」などで、自分の家のこれまでの電気使用状況をきちんと調べて、いつ電気をたくさん使っているのか、どの季節に多くの電気を使っているのかをしっかり把握しましょう。ちなみに今後、電力メーターがスマートメーターに変わっていけば、時間ごとの電気使用状況も把握できるようになります。
今後新しい電力会社を選ぶ際にも、「ご自宅の電気使用は朝型ですか? 夜型ですか?」など生活スタイルについて聞かれるかもしれません。それによって、電力会社のおすすめプランも変わってきます。きちんと把握しておかないと、損をしてしまうプランを選んでしまう危険性があります。
近い将来、家の中でどの家電製品が一番電気を使っているのか、どの時間帯に電気をたくさん使っているのかなどを把握することもできるようになりますので、その情報をもとに自宅の電化製品の使い方や生活のリズムを見直すことで、よりお得なプランを選択できる可能性が増えるのです。
生活スタイルの確認・見直しを
今、携帯電話サービスやガスとのセットプランなど、生活に密着した様々なサービスが一体となったプランが出てきています。
例えばガス会社の中には、2017年から始まる「ガスの小売自由化」を見越して、「今度からガスに加えて電気も売れるのでセット販売を始めます」という営業を始めているところもあるようです。
離れて住む家族の契約をまとめることで安くなるプランなども出てくるでしょうから、ガスや携帯電話などの契約状況、家族の状況などを考慮し、プランを比較して選ぶのがよいと思います。うちは電気と何をセットにしたプランならお得なのか、そういったことを考えていくのも面白いのではないかと思います。
また今後さらに、地域に根差した小さな電力会社というのがたくさん出てくると思います。地域電力会社の中には、地元の人から少額の出資を募っているところもありますので、地元の活性化のために一口出資してみるというのも新しい電気への関わり方だと思います。
電力会社を賢く選ぶ
電力の小売全面自由化により、電力会社の営業方法も大きく変わりつつあります。
これまでは、自由化の対象が商業施設などの法人に限られていたので、営業担当者が企業ごとに提案書を作成し、時間をかけて説明を行っていました。今後は中小企業や一般家庭などこれまでよりも多くのターゲットに効率的に営業していかなくてはならないので、消費者と直接つながりを持っている通信会社やコンビニエンスストア、ショッピングモールを運営している小売会社と連携してPRをしてくるでしょう。
また、テレビCMや新聞広告、インターネット上での広告も増えてくるはずです。
このように電力会社が知恵を出し合い、いろいろなタイミングで消費者へのPR活動が行われると、情報が氾濫します。どの情報を信じてよいのかと対応に困ってしまう人が多く出てくると予想されます。海外では、既にそうした問題が起きています。
電力会社があまりにも増えてしまい、それらが宣伝合戦を行うことで、消費者が混乱してしまうという現象です。国や地域によっては政府や各自治体が推奨する電力会社を数社に絞り込むといった取り組みを行っています。
日本でも、自由化が始まってからある程度期間が経てば、おそらく各社の実績や評判が明らかになってきます。その時点で行政サイドから「この会社がおすすめです」といった認定や許可を与える動きが出てくるかもしれません。
ネットの活用で賢い電力会社選びを
また、現在様々な商品のレビューサイトがあるように、電力会社のレビューサイトや口コミサイトなどが出てくると予想されるので、そうしたサイトを見て第三者の意見を参考にしながら判断していくのも一案です。
逆の意味でいうと、今はネット上にすぐに顧客の生の声が集まる時代ですので、これからの電力会社にとっては、心のこもったコミュニケーションによる顧客との信頼関係の構築がとても重要になってきます。その部分をおざなりにすると、生き残っていけないでしょう。
電力自由化にどう対処したらよいのか? 結論としては、電力自由化によって消費者にとっては非常に選択の幅が増えたので、まずは企業でも家庭でも、今の電力使用状況を把握して見直すことが重要です。
その上で、いろいろな電力会社が提案するプランにすぐに飛びつくのではなく、第三者の意見なども参考にしながら、じっくりと比較検討して選択すべきだということです。
(次回に続く)
◎本稿は、書籍編集者が目利きした連載で楽しむ読み物サイトBiblionの提供記事です。
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