【連載第4回】

2016年4月からスタートした「電力自由化」。今さら人に聞けない「電力自由化とはなにか?」から、電力自由化によって拡大する8兆円市場の可能性、総合エネルギー企業出現の未来予測など、電力自由化を取り囲む周辺事情を、ステップを踏んで分かりやすく解説していきます。 今回は、電力自由化によって私たちの生活がどう変わっていくのか? 実際にどのような電力供給プランがあるのか? 私たちはそれに対してどんな意識で生活していけばよいのか? について語ってもらいました。

記事のポイント

●電力プランは「長期契約プラン」「家族契約割引」などに多様化。
●電気自動車に安い時間の電気をためて効率化できる場合も。
●鉄道会社、住宅メーカーなど他業種の参入によるお得なプランも現れる。
●しっかり情報収集し、メリット・デメリットを吟味して、自己責任で決める時代に。

*本連載は2015/12発行の書籍『かんたん解説!!1時間でわかる電力自由化 入門(著:江田 健二)』の内容をもとに再編集しお届けします。

前回までの記事はコチラ

●連載第1回:電力会社の競争がないからこそ発展できた日本?

●連載第2回(前編):成功?それとも失敗? 世界の電力自由化事情を比較する

●連載第2回(後編):アジアの電力は今後の需要拡大に期待 日本の電力関連企業にとっても魅力的な市場

●連載第3回:電力自由化はまだ道半ば 新しい審査で電力会社はどれくらい淘汰される?

電力自由化によって何が変わるのか?

私たちの生活はどう変わっていくのか

2016年4月から始まった電力自由化。この自由化によって私たちの生活がどう変わっていくのかということを考えてみたいと思います。
まず自由化されたことによって、今までになかった様々な電気料金のメニューが出てきたということが最も大きな変化でしょう。そしてその様々な料金メニューの中から、自分の生活に合ったものを自由に選択できるようになったのです。

イメージとしては、携帯電話のように通信会社を選ぶことができ、いろいろな契約プランやメニューの中から、消費者が自分の生活スタイルなどを考えながら好きなプランを選ぶことができるという感じです。実際海外では、何百、何千という料金プランが存在する国もあり、それをインターネットのサイトなどで比較したり電話で相談をしたりして「じゃあうちはこのプランがいいかな」と電力会社を自分たちで賢く選ぶというのが一般的になっています。

以前は、東京管内に住所登録している会社、家庭の契約先は東京電力しかありませんでした。しかも、電気の料金プランも基本的に各家庭や会社についている電力メーターの数値によって決まっていました。料金メニューは複数存在していますが、多くの人は、変更していないのではないでしょうか。そういった状況は、消費者にとってはある意味何も考えずに済んで楽だったのですが、これからは自分たちで判断して様々なサービスプランの中から選ばなければなりません。

一方で、選択肢がすごく増えてしまい、逆にどうやって選んだらいいのか、何を参考に、何を基準に選んだらいいのか分からない、と戸惑って方もいるかと思います。どんなサービスがあって、自分はどこを選ぼうかなと調べるのが好きな人にとっては楽しいかもしれません。自動車保険、ポイントやマイルなどでも、多種多様なサービスがあります。どっちがどれだけお得かな? などと調べるのが楽しい方もいると思いますが、そうでない人にとっては少し面倒くさい状況になってしまったのかもしれません。

はじめのうちは、どんどん料金プランが増えていくので、それについていけなくなってしまって、どうしたらいいか分らなくて困ってしまう人も出てくるでしょう。そういう訳なので、料金プランがたくさん増えることが全ての人にとってメリットかというと、そうとも言えない面もあります。それについてどう対処していったらいいのかということについては、改めてご説明します。

多様化する新しい電力料金プラン

自由化後に出てきた新しい電力供給サービス、電気料金のプランにはどのようなものがあるのでしょうか。
例えば「長期契約割引プラン」といったサービスがあります。つまり「うちの会社と○年間の長期で契約し、かつ前払いしてくれるのであれば、電気料金を○%割引します」といったプランです。航空会社が行っている「早割」とか「先得」のようなサービス(「早割」はANAが、「先得」はJALが提供している早めの予約によって割引運賃で航空券を購入できるサービス)のイメージですね。

それ以外にも「家族契約割引」のようなものもあります。例えば家族が別々に住んでいる場合、これまではそれぞれの家で別々に料金を払っていましたが、それを「家族○人分まとめて契約すれば基本料金を安くします」というようなものです。こうした新しいプランやメニューは、従来の料金体系で少し損をしてきた人たちにとってはとてもメリットがあるでしょう。

しかし、逆に一人暮らしの学生や若者などは大して電気料金が下がらない可能性があります。電力会社の立場からすると、離れ離れの家族5~6人分がまとめて契約してくれる家庭や長期で契約してくれる顧客の方が、メリットがあります。都心に一人暮らしで、あまり電気は使いません、というような人が「何かもっと割安になる料金プランを提案してよ」と言っても、どこも提案してくれない可能性があります。むしろ今までより料金が高くなってしまうことすらあるでしょう。

新たな電力プランの例

また「団体契約」のようなプランも出てくるでしょう。例えば、特定の信条・ポリシーを持った団体、サークル、民族団体、または特定のコミュニティなどを対象としたプランです。そうなると、「うちの団体はエコを推進しているから、再生可能エネルギーの電気を売っているこの会社の電力を使います」とか、「うちのコミュニティは○○会社と協力関係にあって応援したいから、この会社の電気を買います」といった選択も可能になります。組織ぐるみで電力を一括購入して、その電気を所属メンバーに安く配分するというような考えを持つ人たちも出てくるでしょうし、そういう組織や団体をターゲットにしたプランの営業をする電力会社も出てくると思います。

蓄電池代わりになる「電気自動車」

あるいは、安い時間帯の電気を選んで購入して家庭の蓄電池(電気をためておける電池)にためておいてちょっとずつ使う、という人も出てくるでしょう。
電気料金というのは、電力消費量の多い昼間よりも、消費量の少ない夜間の方が安い傾向にあります。そのため、「夜は電気をもっと安く売ります」という電力会社が出てくる可能性もあります。すると「うちは夜間の電気のみを買って、家の蓄電池でためておく。昼間の電気は買いません」という選択をすることもできます。

一般家庭用の大容量の蓄電池も徐々に出てきています。アメリカの電気自動車(EV)メーカーのテスラモーターズ(バッテリー式の電気自動車や電気自動車の関連商品を開発・製造・販売しているアメリカの自動車会社。CEOのイーロン・マスクは、ロケット・宇宙船の開発などを行うスペースX社のCEOとしても知られる。)なども蓄電池の販売を始めましたが、今後もっと電気自動車が一般的になると、電気は電気自動車にためておける、つまり大容量の蓄電池代わりになります。そこで、電気自動車とセットにして電力を販売する会社も現れるのではないでしょうか。電気自動車については今後様々な活用法が出てくると思いますが、その辺りについては改めて詳しく述べます。

また、鉄道会社なども新しいサービスを始めています。鉄道会社は以前から自由化の対象になっていますので、電気料金を安くする努力を既にしていますし、自分たちで独自の発電設備を持っている会社も多いです。そこで、鉄道会社が新しいサービスとして「うちの電気を買ってくれたら、年に1回、新幹線や特急券などの無料チケットを差し上げます」といったサービスも出てくる可能性があります。

おそらく住宅メーカーも参入してくるでしょう。「うちの会社で家を建ててくれたら、○年間は電気代をうちの会社が持ちます」といったプランを出してくる可能性もあります。そういう、電気をある種のおまけとして活用して自社商品を売るというサービスが、これからたくさん出てくるのではないでしょうか。大手住宅メーカーの大和ハウス工業も、既に電力事業に参入をしています。電力の販売で儲けようというよりは、電気という商材で顧客とのつながりを強化していこうという考え方に向かっていくと思われます。

自由化はバラ色の世界か?

このように、様々な電気料金プランやメニュー、電気料金とセットになった新しいサービスや商品がたくさん出てきています。これは、消費者である私たちにとってはとても喜ばしいことかもしれません。しかし裏を返せば、電力の購入については、消費者責任になるということです。

例えばスーパーに行ってキャベツを買ったときに、後で実は隣のスーパーの方が安かったと分かっても、それはスーパーのせいではなくて、その店でキャベツを買った消費者の責任です。ですから、店ごとの商品の品質や価格を比較して選ぶのが上手な人にとっては、電力自由化後は満足感を得られるようになると思いますが、普段あまり気にせず生活をしている人では、新しい電力会社と契約したものの、1年後ぐらいに、実は損なプランを使っていたということが発覚してがっかりするなどということも起こるかもしれません。携帯電話のサービスで、複数年契約といったサービスや期間限定割引プランをお得だと思って申し込んでしまった後に、違う会社からもっとお得なプランが出てきて「ああ、しまった!」といった状況と同様です。

そういった状況は、いわゆる情報をキャッチすることがあまり得意でない人からすると非常に不利です。気がついたら損をしているということになりがちなのです。つまり、一般的にお年寄りなどインターネットでの情報収集が得意ではない人は、新しい電力会社や新しいプラン、サービスに対して注意を払っておかないと、知らないうちに割を食う世の中になる可能性があるということです。

また、詐欺まがいの悪徳業者が出てくる可能性もあるので、オレオレ詐欺ではありませんが、一人暮らしのお年寄りなどは、本人が気をつけるだけでなく、社会全体で守っていく必要があります。もしかすると国の機関が電力会社を監視したり取り締まったりする動きも出てくるかもしれません。

自由化と聞くと、多くの人はいいイメージを持つと思います。もちろんメリットもたくさんありますが、全てがお得な世界かというと、そうではありません。通信や運輸の自由化と一緒で、おそらくサービス提供者側のレベルも切磋琢磨しながら向上、改善されていくと思います。したがって電力自由化は、サービスの多様化という意味では社会全体にとってとてもよいことだと思いますが、反面、少なからずデメリットも存在しますので、その辺りをしっかりと認識しておくことが大切なのです。

(次回に続く)

◎本稿は、書籍編集者が目利きした連載で楽しむ読み物サイトBiblionの提供記事です。

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