【連載第9回】
2016年4月からスタートした「電力自由化」について、図解も交えて分かりやすく解説する本連載。今回は、電気自動車(EV)の今後の役割と、情報セキュリティの問題について『かんたん解説!! 1時間でわかる電力自由化入門』の著者、江田健二さんに話していただきました。
記事のポイント
●電気自動車(EV)が鍵に
●今後の課題は「情報セキュリティ」
*本連載は2015/12発行の書籍『かんたん解説!!1時間でわかる電力自由化 入門(著:江田 健二)』の内容をもとに再編集しお届けします。
前回までの記事はコチラ
●連載第2回(前編):成功?それとも失敗? 世界の電力自由化事情を比較する
●連載第2回(後編):アジアの電力は今後の需要拡大に期待 日本の電力関連企業にとっても魅力的な市場
●連載第3回:電力自由化はまだ道半ば 新しい審査で電力会社はどれくらい淘汰される?
●連載第4回:自由化はメリットばかりじゃない 料金をお得にするには「知る力」が必要
●連載第5回:ビッグデータによる新たなビジネスチャンスも 参入企業のメリット・デメリットについて考える
●連載第6回:2017年の「ガスの小売自由化」を見据えて自由化競争はますます激化する?
●連載第7回:電力×IT スマートメーターの導入で電気の使い方が変わる
●連載第8回:家電も電力消費もボタン一つでコントロールできる時代がやってくる
電気自動車(EV)が鍵に
電力自由化、そしてその先に広がる電力エネルギーを取り巻く未来社会を語る上で欠かせないのが電気自動車の存在です。
現在日本ではハイブリッドカー(HV)の普及が進んでいますが、今後は電気自動車の進化、普及に拍車がかかっていくでしょう。グーグルやアップルなどのIT企業も、積極的に電気自動車の開発を進めています。
したがって一般家庭にとっては、今後スマートハウス(ITによって家庭内のエネルギー消費が最適に制御された住宅)と同時に電気自動車が、電力自由化にからむライフスタイルの変化の重要なキーワードになっていくと思われます。
例えばもし自宅に電気自動車があれば、価格の安い深夜時間帯の電気のみを購入して電気自動車を蓄電池代わりにすることができます。今後、電気自動車の性能も徐々に向上していきますので、自宅の電気自動車に今よりもさらに大容量の電気をためられるようになるでしょう。
ビジネスとしても、テスラモーターズはもとよりトヨタ、日産、ホンダなど日本の自動車メーカー、またパナソニックなどの大手家電メーカーなどは、互いに連携しながら新しいサービスを開発、提供してくると思います。例えば「うちの車を買ってくれたお客様には、特別割引プランでの電力販売をします」といったサービスも出てくるはずです。
電気自動車の普及によって、街中にもっと電気ステーション的なものが増えていくでしょうし、例えば「タイムズ」のようなコインパーキングに電気自動車専用の充電コンセントが設置され、駐車しながら充電もするといったシステムも出てくると思います。
したがって駐車場を経営している会社にとっては大きなビジネスチャンスです。ガソリンスタンド、レンタカー会社、カーシェアリング会社、タクシー会社など車に関係する業界に大きな変革の波が押し寄せるでしょう。もしかしたら、車の屋根が太陽光発電装置になっていて、走りながら充電できる車も出てくるかもしれません。
電気自動車が重要なアイテムに
テスラは近い将来300万円前後の電気自動車を売り出すと発表していますが、それくらいの価格になってくると「じゃあうちもそろそろ電気自動車を検討してみようかな」という人がかなり増えるのではないでしょうか。その時にあちこちのコインパーキングに急速充電サービスがあったら、とても安心です。
普及のスピードについては、自動車メーカーがどれくらい電気自動車へのビジネス転換を積極的に推進するかにかかっていますが、電力自由化によって、確実に電気自動車の普及にも拍車がかかるでしょう。2025年ごろまでには、電気自動車が一般的になっている可能性は十分あります。
今後の課題は「情報セキュリティ」
電気自動車だけでなく、スマートメーターやHEMSなど、電力管理システムのIT化、デジタル化は私たちの生活に様々なメリットをもたらします。
ではメリットしかないのかというと少なからずデメリットもあります。それは情報セキュリティの問題です。
電力利用状況の詳細なデータ収集によって、各世帯の電気の使い方や、いつ留守にしているかなどといった非常に細かい生活情報がデジタルデータとして残ります。
もしそうした情報が誤って漏えいしたり、電力会社のデータベースがハッキングされて、その会社の顧客の生活情報が全て明るみに出てしまうといった危険性もあります。
そうした情報が漏えいした場合の影響は大きく、個人のクレジットカードでの買い物情報が漏えいした場合などと同様に生活実態を他人に把握されてしまいます。
電力会社には相当量の電力情報が蓄積されていきますから、電力会社の顧客情報が漏えいしてしまうことは、携帯電話会社がユーザーの通話情報を外部に漏らしてしまうような事態に近いことになると思います。
価格の安い電力会社と契約して、1年後その会社が倒産してしまったとします。そうすると1年分の顧客の電気利用データが知らない場所で使われていた、といったことが起こるかもしれません。
電力自由化にともない、こうした情報セキュリティ問題は確実に起こると思います。スマートメーターが導入されることによって、今その家に人が在宅しているか留守かが分かりますし、その家の特性、例えば土日は全然電気を使っていないから家を空けているとか、ある月から電力使用量が大幅に増えたりしたことで「家族が増えた」などといった情報も分かってしまいます。
そうしたデータの流出・漏えいを防ぐためのビジネスも出てくるでしょう。トレンドマイクロなど、インターネット用のセキュリティ関連製品・サービスの販売会社などにとってはビジネスのチャンスが広がることになります。
インターネットが生まれたことによってインターネットセキュリティの概念ができ、それがビジネスとして成立してきました。電気に関しても今後どんどん消費者データが蓄積されてくれば「電気情報セキュリティ」といった概念が生まれてくるはずです。
電力自由化と「情報セキュリティ」の関係
デジタル化には、必ずこういったリスクがつきまといます。検針員が検針して、その場で明細書が印刷され、家庭のポストに入れられるといったこれまでの仕組みでは、そのようなリスクはありませんでした。
電力会社のデータセキュリティ体制については、今後おそらくなんらかの基準が定められるでしょう。電力会社が一定レベルの顧客管理体制、情報管理体制を備えているかどうかを国が審査するのです。
スマートメーターを設置する際も、電力会社は顧客に対して、どんなデータをどれだけ収集できるものであるかをきちんと説明していくべきでしょう。情報セキュリティの問題は今後確実に出てくるでしょうから、もし新たに電力事業を始めるのであれば、各企業はその点に関してもしっかり対策しておかなくてはなりません。
(次回に続く)
◎本稿は、書籍編集者が目利きした連載で楽しむ読み物サイトBiblionの提供記事です。
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