「世界中の経験・知見が循環する社会の創造」というビジョンを掲げる株式会社サーキュレーション。Business Nomad Journalでは、個人が複数の企業に同時参画して持てる力を生かす「新しい働き方」と、企業が外部人材を活用することで実現する「オープン・イノベーション」についての情報をお届けしています。

 

「新しい働き方」と「オープン・イノベーション」は今、地方の中小企業が新たな活路を見出すために欠かせない要素となりつつあります。本連載では「”人”が変える地方創生」と題して、この2つの潮流についてじっくりお伝えしてきました。

 

第7回では、事業拡大に向けて外部人材を活用した企業の事例をサーキュレーション執行役員の福田悠よりご紹介します。登場していただくのは株式会社ワールド・ワン(兵庫県神戸市)。20店舗超の飲食店を展開する同社は、「上場」という新たなステージを目指して経営の舵を切りました。

 

本記事はサンケイビズの連載「”人”が変える地方創生」との連携企画です。サンケイビズの記事についてはこちらから

従業員やその家族に安心感を与え、新業態を展開していくための上場

神戸・三宮を中心に、ドミナント戦略でさまざまなブランドの店舗を展開。創業20年を迎えた同社を率いる河野圭一社長は、元プロレスラーという異色のキャリアの持ち主です。

 

長時間労働などの過酷な環境がクローズアップされがちな外食産業にあって、意図せず疲弊してしまう可能性がある従業員や、日頃その姿を見ている家族に安心感を持ってほしい。法規制を明確にクリアし、正しい経営を進める企業であることを伝えたい。そんな思いで、上場を目指すという戦略が動き始めました。

 

同時に、これまではバラバラだったブランド戦略に統一感を持たせ、地方の特産品を活用する店舗作りも進めています。新たな居酒屋業態「土佐清水ワールド」では、過疎化に苦しむ高知県の土佐清水市から食材を仕入れることで地方の活性化に取り組み、メディアからも注目されています。

外部人材の活用は、会社を変革するための劇薬?

同社で上場戦略の陣頭指揮を執る取締役の羽場洋介さんは、「中の人間だけで物事を進めると、既存の企業文化や人間関係を前提にしがち。外部人材として、それらを無視した立場で戦略を考えてほしかった」と語ります。社内にはない成功体験を持つ人材に「ばっさり」アドバイスをしてもらうことで、会社を変革するための劇薬としたい。サーキュレーションへの依頼の背景には、そんな思いもあったそうです。

 

それまでも同社では著名な顧問税理士から経営指導を受けていましたが、IPOの知見を持つ人材は内部にも外部にもいませんでした。そのため、上場に向けた事業企画や戦略立案を任せられる外部人材の活用を提案したのです。

 

ご紹介した阿部洋士さん(47)は、イベント制作や飲食事業を手掛ける会社の役員を経て、若くして独立したビジネスノマド。海外を含め、50店舗以上の飲食店をプロデュースした経験の持ち主です。上場時には約40店舗という体制を計画していたため、その規模感が分かる専門家をご提案しました。現場を重視し、全店舗を回ってそれぞれの運営状況を改善。週に2日、東京から神戸に通っていただき、半年間にわたって支援していただきました。

地方活性化の鍵は「現場の活躍」

実は、同社の羽場さんは監査法人出身で、上場支援が専門です。社長に請われてジョインしました。羽場さんが専門とするのは財務分野を中心とした上場支援。「とはいえ飲食事業を動かした経験はなかったため、阿部さんのように現場に魂を込めていただける外部人材の存在は心強く、スムーズに施策を実行していくことができました」と振り返ります。「頭でっかちの戦略を語るだけではなく、現場のスタッフが分かりやすいように絵を示して説明し、全員に伝わる言葉で語っていただきました」

 

地方の中小企業にとって、人材確保は常に頭痛の種でしょう。特に、専門スキルと知見を持つ経営人材を招くことは至難の技。そうした企業に、経営経験があり業態への理解も深い専門家が入ることで、大きな価値提供ができるのだと思います。

 

地方では、飲食業だけではなく旅館・ホテル業や製造業など、現場の活躍が何より重要とも言える業種の企業が経済活性化の鍵を握っています。まだまだ、プロ人材の活躍機会が眠っているのかもしれません。

 

取材・記事作成:多田 慎介

福田悠

株式会社サーキュレーション執行役員、コンサルティング本部シニアコンサルタント。
株式会社インテリジェンスを経て、株式会社サーキュレーション創業に参画。
現在は、数々の企業とのアライアンスを手がけながら、
製造業チームのマネージャーとして、地方を含む中小企業の経営支援に従事。