「新しい働き方」と「オープン・イノベーション」は今、地方の中小企業が新たな活路を見出すために欠かせない要素となりつつあります。本連載では「”人”が変える地方創生」と題して、この2つの潮流についてじっくりお伝えしてきました。

 

第9回では、前回に続いてサーキュレーションの福田悠より、実際に外部のプロフェッショナル人材を活用して新規事業を軌道に乗せた企業の事例をご紹介します。鉄道や道路、電力、ガスなどの社会インフラをICT技術で支えるとともに、文化財に関する事業を官民で展開するナカシャクリエイテブ株式会社(愛知県名古屋市)では、文化財の知見を生かした新規事業開発に外部人材を活用しました。

 

*本記事はサンケイビズの連載「”人”が変える地方創生」との連携企画です。サンケイビズの記事についてはこちらから

地方創生予算頼みの既存事業から、インバウンド需要を取り込む独自事業へ

創業60年近くの歴史があるナカシャクリエイテブは、外国人観光客向けに、地域ごとの特徴や特産、文化財などを調べられるサービスやメディアを提供しています。埋蔵文化財の調査や整理、アーカイブ化を官公庁や教育・研究機関から受託し、事業の柱としてきた同社。インバウンド需要が盛り上がる中で、長年蓄積してきた文化財の知識を活用した新規事業を立ち上げました。

 

文化情報部に所属し、この新規事業を推進する坂本範基さんは、「受託産業だけに頼り切るのではなく、そこから脱却した独自の事業を展開したいという思いがあった」と話します。官公庁や教育・研究機関がクライアントとなる受託事業では、エンドユーザーの満足度が分からないという課題もありました。

 

地方創生関連の予算によって発生する自治体からの発注。蓄積した情報をどのように活用するか、どのような成果をアウトプットするかといったことは、あまり強く求められていませんでした。一方、ここ数年のインバウンド振興政策により、「観光資源として文化財をもっと活用しよう」という機運も盛り上がっていたそうです。自治体からの依頼に対して、より高いレベルで応え、外国人観光客にも今以上に日本を満喫してほしい。そんな思いで、新規事業開発がスタートしました。

起業経験のあるプロ人材が、ビジネス立ち上げとマネタイズを支援

しかし、社内の力だけで新規事業を進めていく難しさもありました。スマホアプリなどの事業実績はあるものの、外国人にも受け入れられる設計とはどういったものか、マーケティングをどのようにして進めていくかといった、社内にはない知見も必要とされていたのです。

 

そこで同社では、外部人材を活用することにしました。求めるのは、新しいビジネスをスタートアップさせ、実際にマネタイズしていくことです。

 

ご紹介したプロフェッショナル人材は、富井大輔さん(41)。大手製造業でマーケティングを経験した後に起業し、スマホアプリ開発などを中心とした新規事業に数多く関わっている方です。コンサルタントとして机上でアドバイスをするだけではなく、自身が経験してきたことを軸に現場を動かしていけるという強みを持っています。

 

アプリ開発を専門とするエンジニアがいない同社でも、分かりやすくビジネス展開のポイントを伝え、社内の人材を巻き込んでいける人間性もマッチングのポイントでした。富井さんは週1回、名古屋の本社や東京のオフィスに顔を出し、事業開発を進めています。

外国人社員も加わり、プロジェクトの議論が活性化

ナカシャクリエイテブでは現在、富井さんを交えて、新しいソリューションの考え方などの議論が活発に行われています。プロジェクトメンバーには、日本の歴史や観光地が大好きな若手の中国人社員も。よりユーザーに近い目線でサービス開発をしています。

 

現状は単一のプロジェクトですが、こうした新たな動きは今後、社内の他部門にも影響を与えていくかもしれません。インバウンド需要の取り込みは、日本各地で対応が求められている課題。最新の成功事例が同社から発信される日は近そうです。

 

取材・記事作成:多田 慎介

福田悠

株式会社サーキュレーション執行役員、コンサルティング本部シニアコンサルタント。
株式会社インテリジェンスを経て、株式会社サーキュレーション創業に参画。
現在は、数々の企業とのアライアンスを手がけながら、
製造業チームのマネージャーとして、地方を含む中小企業の経営支援に従事。