「新しい働き方」と「オープン・イノベーション」は今、地方の中小企業が新たな活路を見出すために欠かせない要素となりつつあります。本連載では「”人”が変える地方創生」と題して、この2つの潮流についてお伝えします。
第5回のテーマは、「人のオープン・イノベーション」。さまざまな定義・概念で語られるオープン・イノベーションですが、地方の中小企業がまず取り組むべきは人をオープンにし、外部の知見を活用すること。その背景と効果を考察します。
本記事はサンケイビズの連載「”人”が変える地方創生」との連携企画です。サンケイビズの記事についてはこちらから
「オープン・イノベーション」を「機能」「技術」「人」で考える
地方創生を語る上で重要なカギとなるのが、「オープン・イノベーション」。企業内部と外部のアイデアや機能などを有機的につなぎ合わせて、価値を創造する取り組みを指します。これを、「機能」「技術」「人」という3つに分類して考えてみましょう。
まずは1つ目、「機能のオープン・イノベーション」について。これにはたくさんの事例があります。例えば、大手企業の新規事業開発担当者が、合弁会社やコーポレートベンチャーキャピタルを設立したり、インキュベーション施設やアクセラレータプログラムを運営するなど、外部の人材からの事業アイデアの取り込みや、連携を強化するために部署や機能を創設することが盛んにおこなわれてきました。
2つ目の「技術のオープン・イノベーション」でも産学連携の取り組みを含め、自社と外部の技術を融合させ、新たな可能性を見出す取り組みも進んでいる。昨今のIoT(Internet of Things)関連で進められている技術開発も、そのひとつ。オープン・イノベーションを最大限に活用することで、確実な進展を遂げています。
「自社のリソース+外部人材の知見」で、地方の良さを生かした事業を
そんな中で、より注視すべきなのが3つ目の「人のオープン・イノベーション」。外部のプロ人材の経験・知見を、従来型の雇用という方法以外で、いかにして社内に取り込むか。特に中小企業においては、柔軟な人材活用によって外部から経営資源を確保することができ、外部人材を組み合わせることで、それまではずっと社内に眠っていた「隠れた知見」を引き出すことにもつながります。また、中小企業の社長が何度アプローチしても接触が難しかったり、企画を進めることが困難な大企業や研究機関とも、外部のプロ人材のネットワークや企画力を活用することで容易に関係性を築いたり、プロジェクトを具体化させることができます。
この「人のオープン・イノベーション」は、地方の中小企業を救う大きな力となります。地方ではそもそも経営資源が不足しがちで、自社のリソースだけを使って勝ち続けることは難しい。限られたリソースに頭を悩ませるよりも、人材を柔軟に活用することで、地方の良さを活かした事業を展開し、推進していくことが重要です。
元気な企業や大手と交流し、新しい視点で経営判断
世界に目を向けると、人のオープン・イノベーションに関する日米の差は明らかです。日本では、自社の人材を重要な経営資源として位置づけし、その活用を第一に考えます。もちろんそれは世界共通の考え方ではありますが、日本の経営者の場合は、これが行き過ぎてしまうきらいがあります。「自社の経営資源で対応できないか」と、社内人材の有効活用ばかり考えていることが多いように見受けられます。
そうなると、自社の人材でできることしか、実現可能なことにしか挑戦できなくなってしまい、発想や戦略も企業はどんどんクローズになってしまいます。もちろん、内部経営資源の最適化を図り続けること自体は悪いわけではありません。これまでもそうして大企業が成長してきたという事実もあります。しかし、それではあまりにも多様性がなく、柔軟な発想もできないために、新規事業開発や事業戦略の転換は難しい。激化する競争環境の中で自社の経営資源だけに頼っていては、成長スピードが遅くなり、コストがかさむ一方です。
地方の中小企業は特に、人のオープン・イノベーションを前向きに考えるべきでしょう。社内だけを見た体制作りやファミリー経営でどんどん事業が縮小し、会社と個人・家族のキャッシュフローを一緒にして考えてしまうような状況になっていないでしょうか?
人のオープン・イノベーションに取り組むことで、元気な東京の企業とつながったり大企業と連携したりといった新たな可能性も生まれます。外部のプロ人材から高度なノウハウや人脈を手に入れて、これまでにない視点で経営判断を下していく。そんなイノベーションを生み出せるような社会は、もうすぐそこまできています。
取材・記事作成:多田 慎介
*次回へ続く→第6回 地方の中小企業が変われない理由
*前回までの記事はコチラ
・第1回 「地方の中小企業を支えられるのは人」だと知った原体験 株式会社サーキュレーション・久保田雅俊
・第2回 従来型の「雇用」では、地方に人は来ない。地方創生の真の課題は、「雇用を創生する」こと
・第3回 従来型の雇用を超えて、「プロフェッショナル人材の経験と知見」を循環させる方法
・第4回 「働き方革命」が、地方企業と個人にもたらす未来 株式会社サーキュレーション
久保田雅俊
サーキュレーション代表取締役。1982年生まれ。
総合人材サービス大手を経て2014年にサーキュレーションを設立。
設立2年半で、国内最大規模となる1万人の独立専門家ネットワークを構築、経営支援実績1000件を突破。
15年、高い志を持つベンチャー起業家に贈られる「北尾賞」を受賞。