「新しい働き方」と「オープン・イノベーション」は今、地方の中小企業が新たな活路を見出すために欠かせない要素となりつつあります。本連載では「”人”が変える地方創生」と題して、この2つの潮流についてじっくりお伝えします。

 

第3回のテーマは、地方の中小企業に必要なプロフェッショナル人材を、いかにして東京圏から呼び込むかについて、考えてみたいと思います。

 

本記事はサンケイビズの連載「”人”が変える地方創生」との連携企画です。サンケイビズの記事についてはこちらから

シニア、ビジネスノマド、女性……「人材」にはまだまだ可能性がある

従来型の雇用では、東京圏に一極集中する人材と地方の中小企業をマッチングすることは難しいのが現状です。例として、一つのペルソナを考えてみましょう。「大手広告代理店に勤務する35歳の男性。年収1200万円。子どもが2人いて、武蔵小杉に5500万円のマンションを購入し暮らしている」。果たしてこの人が、地方に移住して働くでしょうか?

 

地方企業を元気にするためには、新しい仕組みの中で、当たり前に人材を確保できる状況を作ることが前提となります。もちろん地元の人材を活用することがベースになりますが、それだけでは足りません。東京圏から、地方で活躍してもらうプロ人材を発掘する必要があります。

 

例えば大企業の重要ポジションを務めて定年退職したエグゼクティブ・シニア。または自身のスキル・経験を生かして複数企業の経営に関与する個人事業主や経営者。そして、ライフステージの変化の中でなかなか実力を生かしきれずにいる女性。こうした方々の力を活用するために、多様な働き方を提案し、東京圏と地方の間で人材を循環させていくことが大切です。しかし、「雇用したいから家族ごと地方に移住し、コミットしてくれ」というやり方では、いずれ限界がきてしまうことは目に見えており、地方創生にはつながらないでしょう。

 

そこで、新しい働き方が必要となってくるわけです。シニアを経営顧問として迎え入れる動きは以前からあり、それを主軸にした人材ビジネスを展開する企業も存在しています。ここにビジネスノマドや女性プロフェッショナル人材の可能性を加えて、新しい働き方を提案しているのが株式会社サーキュレーション。この仕組みを一つの社会インフラとして拡充し、地方の中小企業にとってなくてはならない機能にすることを目指しています。

プロフェッショナル人材の力を、複数の企業でシェア

ここで実際に、サーキュレーションがどんな取り組みをしているのか、少しご紹介します。
事業を簡単に説明すると、経営強化を考える地方の企業に対して「プロフェッショナル人材の力をシェアする」ということ。地方の企業に転職してフルタイムで働いてもらうのではなく、力をシェアする形で、「月に1週間だけ来てもらう」といったような働き方を提案しています。またプロフェッショナル人材にとっても、地方の企業に関わることは、自分自身の力を発揮できる場を広げるという意味で、とても魅力的なことといえるでしょう。

 

そのために行っているのが、シニア人材がどのような経験・知見を持っているのか、独自の指標を用いて定義すること。若い個人事業主や経営者にも、自分の職能を生かして多くの企業で活躍したいと考える方も増えています。こうした方々の力や情熱と、地方企業の経営課題をマッチングする仕組みを提供しています。

テクノロジーの進歩が「人の役割」を変えていく

昨今、AI(人工知能)やロボットなどのテクノロジーの進化によって、人間の仕事がどんどん減っていくのではないかと言われています。例えば大手家電メーカーを中心としたプロジェクトでは、「洗濯物の折りたたみまで自動でやってくれる洗濯機」の開発が進められているなど、「家事はほとんどお手伝いロボットがやってくれる」という時代が、もうそこまで近づいています。もちろん産業においても、同様のイノベーションが続いていくでしょう。

 

そんな中でも人間がするべきなのが、「決断すること」と「責任を取ること」です。物騒な例えですが、「核のスイッチをコンピューターに押させる」ようなことは、あってはならないことです。物事を決断して責任を取るという力は、人の頭の中にある経験や知見からしか生まれません。この力はロボットには継承できないし、どんなに検索エンジンが発達しても人の頭の中までは探せない。だからこそ、「世界中の経験と知見を循環させる」ことが必要なのです。

 

テクノロジーの進歩によって「人の仕事がテクノロジーに奪われる」という発想ではなく、「テクノロジーを人の仕事に役立てる」ことを考え、実践していかなければならない。東京圏に比べてビジネスチャンスが限られる地方では、このことをより真剣に考えていかなければならないでしょう。人が持つ経験や知見を整理し、循環させることが、その第一歩だと思います。

 

取材・記事作成:多田 慎介

 

*次回へ続く→第4回 「働き方革命」が、地方企業と個人にもたらす未来 株式会社サーキュレーション

 

*前回までの記事はコチラ

第1回 「地方の中小企業を支えられるのは人」だと知った原体験 株式会社サーキュレーション・久保田雅俊

第2回 従来型の「雇用」では、地方に人は来ない。地方創生の真の課題は、「雇用を創生する」こと

久保田雅俊

サーキュレーション代表取締役。1982年生まれ。
総合人材サービス大手を経て2014年にサーキュレーションを設立。
設立2年半で、国内最大規模となる1万人の独立専門家ネットワークを構築、経営支援実績1000件を突破。
15年、高い志を持つベンチャー起業家に贈られる「北尾賞」を受賞。