「新しい働き方」と「オープン・イノベーション」は今、地方の中小企業が新たな活路を見出すために欠かせない要素となりつつあります。本連載では「”人”が変える地方創生」と題して、この2つの潮流についてじっくりお伝えします。

 

第6回のテーマは、「地方の中小企業が変われない理由」。事業承継や新規事業開発という課題をクリアしていくためには、何が必要なのでしょうか。これまでに見てきた数々の問題点をお伝えし、その解決策を提示します。

 

本記事はサンケイビズの連載「”人”が変える地方創生」との連携企画です。サンケイビズの記事についてはこちらから

地方の中小企業が抱える事業承継の課題

社長が高齢で病に倒れ、経営者不在となった会社は清算せざるを得ない。このような、事業承継の問題を抱える中小企業は多いはずです。実はこの問題は、外部のプロ人材の力を借りることでスムーズに解決できることがあります。例えば2代目社長が事業を継承し、会社を改革しなければいけないとき。社内の人材だけを使ってクローズドな視点で進めようとしても、新しい成果は生まれにくい。2代目が悪いというわけではありません。クローズドである限り、誰が引き継いでも結果は同じなのです。事業承継後は、いかに外部人材を活用して会社をオープン化させていくのかが問われるのです。

 

新規事業を立ち上げよう、新しい事業開発をしようという動きに対する問題も同じ。「イノベーション」をどのようにして成功させるかが、日本のありとあらゆる企業の課題であると言っても差し支えないといえます。

新規事業が失敗する3要素……「採用頼み」「役員任せ」「社内コンペ」

地方の中小企業が抱える課題の中で、特に難しいのが「新規事業開発」です。よくある取り組み方としては「社内の人材だけで新規事業を推進する」ことですが、それでは革新的なアイデアや新しい成果は、なかなか生まれません。だからといって、労働人口の減少が続く中、新規事業に精通した専門性を持った人材を採用するのは難しいのが現状です。

 

例えば、中小企業の社長に「社内の新規事業開発は進んでいますか?」と聞くと、「進んでいるよ。即戦力人材の中途採用に向けて動いている」という答えがよく返ってきます。ですが、イノベーションを担うような人材は、転職市場にはなかなか出てきません。現職の会社で高く評価されているはずですし、転職市場に出てきたとしても採用するまでには高いコストと長い期間を要するでしょう。

 

また、「役員やエース社員に任せている」と話す経営者もいます。この場合、いくら能力が高い人材でも兼務で担うことが多い為、思うように進まず気づけば途中で頓挫していることが多いようです。

 

「新規事業に関する社内コンペを開催しよう」というやり方も同じです。いかにも「それっぽい」方法ではありますが、50名の社員でアイデアを出し合ったとしても限界があるでしょう。経営者のビジョンに共感し、これまで同じ事業に従事してきた、同じ志向を持っている社員に、経営者以上の新規性を求めるのは、容易なことではありません。

事業開発から実働支援まで。あらゆるフェーズを前に進める外部人材の力

だからこそ、外部の知見を活用する「オープン・イノベーション」が大切なのです。新規事業では経営者も知見のない新しいマーケットに打って出ることになります。そのマーケットに精通した人材の力を借り、専門性を活かしてプロジェクトを実行していく。そのためには、「どこに勤めていたか」ではなく「何ができるかという」を軸にして人選を行っていくことが重要です。ターゲットが決まったら、それを推進する役目として事業開発の経験者を入れたり、Webサービス開発であればIT関連に明るい人材を迎えたりすることも必要でしょう。

 

そうして、次にマーケティングの実行や販路の拡大。事業開発のフェーズから、実働支援のフェーズに移っていきます。その過程で社内の組織設計や担当者の育成も行う。一過性のコンサルティングではなく、実働支援により継続的に新規事業を作れる体制までを自社内に作ることが重要なのです。

同時に複数社で活躍する新たな人材リソースが、地方の中小企業の課題解決につながる

少子高齢化で労働人口が減ることは、優秀な人材を確保するためのハードルが上がることを意味します。そうした状況の中で、個人が持っている経験や知見をシェアしていくための機会は今後ますます求められるはずです。専門家人材を一カ所に縛り付けるのではなく、同時に複数社で活躍してもらう。こうして生まれる新たな人材リソースが、地方の中小企業の課題解決につながるのです。

 

地方の中小企業が「採用したくてもできない」人材が、実際に自社に来て活躍してくれる。これは従来型の雇用ではなく、「期間限定」や「プロジェクト単位」の参画するからこそ可能になることです。専門家が一カ所に縛り付けられるのではなく、同時に複数社で活躍することができるようになるからです。こうした提案によって、新たな材リソースが、実際に地方の中小企業の課題解決につながっている。「個人の経験や知見をシェアする」動きは、今後ますます広がっていくでしょう。

 

取材・記事作成:多田 慎介

 

*次回へ続く→第7回 会社に「劇薬」を―上場を目指して躍進する飲食企業と外部人材 株式会社ワールド・ワン

 

*前回までの記事はコチラ

第1回 「地方の中小企業を支えられるのは人」だと知った原体験 株式会社サーキュレーション・久保田雅俊

第2回 従来型の「雇用」では、地方に人は来ない。地方創生の真の課題は、「雇用を創生する」こと

第3回 従来型の雇用を超えて、「プロフェッショナル人材の経験と知見」を循環させる方法

第4回 「働き方革命」が、地方企業と個人にもたらす未来 株式会社サーキュレーション

 

第5回 「人のオープン・イノベーション」で、地方ならではの良さを活かせる方法を見つける

久保田雅俊

サーキュレーション代表取締役。1982年生まれ。
総合人材サービス大手を経て2014年にサーキュレーションを設立。
設立2年半で、国内最大規模となる1万人の独立専門家ネットワークを構築、経営支援実績1000件を突破。
15年、高い志を持つベンチャー起業家に贈られる「北尾賞」を受賞。