「新しい働き方」と「オープン・イノベーション」は今、地方の中小企業が新たな活路を見出すために欠かせない要素となりつつあります。本連載では「”人”が変える地方創生」と題して、この2つの潮流についてじっくりお伝えしてきました。

 

第8回では、サーキュレーションの福田悠より、実際に外部のプロフェッショナル人材を活用して新規事業を軌道に乗せた企業の事例をご紹介します。長年にわたり通販代行業を展開してきた株式会社アイケイ(愛知県名古屋市)では、PB(プライベート・ブランド)商品の販路開拓と拡大に向けて外部人材が力を発揮しました。

 

*本記事はサンケイビズの連載「”人”が変える地方創生」との連携企画です。サンケイビズの記事についてはこちらから

「メーカーベンダー」を目指してモノづくりに挑むも、販路開拓に苦戦

創業34年の同社は、「BtoBtoC」の通販代行業や卸売業を展開し成長してきました。大手生活協同組合を取引先に持ち、自社でショッピングカタログも発行。2001年にはJASDAQへの上場も果たしています。一方で、将来に向けた新たな高収益事業を作るため、5年前からPB商品の開発もスタート。強みである化粧品と健康食品の分野でのモノづくりを進め、「メーカーベンダー」を目指して新規事業を推進してきました。

 

PB商品の販路は、ドラッグストアが中心です。直接的な取引口座を持たない同社は、ベンダーを通して商品を流通していきました。しかし返品が多く、収益的に厳しい状況が続きます。大手ドラッグストアチェーンと直接取引をしたいが、営業ノウハウやツテがない。新規事業としては売上が上がっていないので、それを解決できるような人材の採用にも踏み出せない。

 

そんな課題を抱えた同社の解決手段の選択肢の一つが「外部のプロフェッショナルを活用する」ということでした。

大手6社との販路を作り、数億規模の売上へと導く

課題解決のために活用した外部人材が、リアル店舗の販路拡大支援の専門家。日本を代表する大手化粧品メーカーに勤務し、著名なスキンケアブランドを立ち上げた経験を持つプロフェッショナルです。

 

プロジェクト期間は約2年に及びました。課題であった大手ドラッグストアチェーンへ、トップダウンで販路を切り拓いていく日々。過去の経験から大手チェーン各社のトップとつながりを持っていた外部専門家ならではの、人脈力を生かした活躍でした。テストマーケティングとして単体チェーン数百店舗への導入が決まり、それが全国数千店へと広がっていく。ダイナミックな変化が、アイケイのPB展開にもたらされました。

 

ピンポイントで、さまざまな経営者との商談を実現。結果的に大手ドラッグストア6社との販路開拓に成功し、数億規模の売上を新たに作ることができました。一挙にPBの卸売事業が加速し、近い将来は数十億円の売上規模になると見られています。同社の新規事業を牽引する執行役員の湯浅誠さんは、「専門家と出会っていなければ、この事業をあきらめていたかもしれない」と振り返ります。

外部人材との連携が生んだ”もう一つの効果”

同社に限らず、中小企業が新規事業を成功させるためには、その事業に精通したプロフェッショナル人材の知識や経験、そして人脈を活用することが重要です。しかし、プロフェッショナル人材が東京に集中している現状では、人材確保の段階でうまくいかずに事業を軌道に乗せられない地方企業も多いのではないでしょうか。

 

今回ご紹介したアイケイは、成熟する成長市場と向き合い続けてきた歴史ある企業。意外なことに、そんな同社の経営陣の間ではここ数年、積極的に外部人材の力を活用しようとする機運が高まっていたそうです。新たな販路拡大に大きな成果を残したことで、今後もその動きは拡大していきそうです。

 

外部人材の力を活用し、プロに任せて社内プロジェクトを前進させることの効果は、スピーディーな事業展開だけにとどまりません。湯浅さんは「平均年齢30歳と若い人材が多い当社で、目を見張るような成果を出してくれる外部専門家とともにビジネスを進める経験ができたことは、今後の新規事業開発を担う若手社員の育成にもつながった」と話します。

 

雇用のリスクを背負うことではなく、外部との連携を強化することで事業を加速させる。そんな成功体験を得た同社では、新たな視点を持った若手人材の台頭も始まっています。

 

取材・記事作成:多田 慎介

 

*次回へ続く→第9回 アプリ開発のプロとともに、既存事業から脱却した新プロジェクトが始動 サーキュレーション・福田悠

 

*前回までの記事はコチラ

第1回 「地方の中小企業を支えられるのは人」だと知った原体験 株式会社サーキュレーション・久保田雅俊

第2回 従来型の「雇用」では、地方に人は来ない。地方創生の真の課題は、「雇用を創生する」こと

第3回 従来型の雇用を超えて、「プロフェッショナル人材の経験と知見」を循環させる方法

第4回 「働き方革命」が、地方企業と個人にもたらす未来 株式会社サーキュレーション

 

第5回 「人のオープン・イノベーション」で、地方ならではの良さを活かせる方法を見つける

第6回 地方の中小企業が変われない理由

第7回 会社に「劇薬」を―上場を目指して躍進する飲食企業と外部人材 株式会社ワールド・ワン

福田悠

株式会社サーキュレーション執行役員、コンサルティング本部シニアコンサルタント。
株式会社インテリジェンスを経て、株式会社サーキュレーション創業に参画。
現在は、数々の企業とのアライアンスを手がけながら、
製造業チームのマネージャーとして、地方を含む中小企業の経営支援に従事。