「新しい働き方」と「オープン・イノベーション」は今、地方の中小企業が新たな活路を見出すために欠かせない要素となりつつあります。本連載では「”人”が変える地方創生」と題して、この2つの潮流についてじっくりお伝えします。

 

第4回のテーマは、日本で進みつつある「働き方革命」。地方企業が外部人材を活用するためには、これまでの常識にとらわれない、新しい働き方を実践できる社会に変わっていく必要があります。それを後押しする「働き方革命」の波は、どのような背景で進んでいるのでしょうか。

 

本記事はサンケイビズの連載「”人”が変える地方創生」との連携企画です。サンケイビズの記事についてはこちらから

シニアの活躍が、地方企業が発展していく鍵となる

ワークシフト、いわゆる「働き方革命」が確実に進んでいます。その中で、地方企業が生き残り、発展していくには4つのポイントがあります。

 

まずは連載の第1回目でもお伝えした「サザエさんのパラダイムシフト」の話です。60年前の60歳と、今の60歳は大きく違います。とても元気で、まだまだ働ける状態なのに、社会から離脱するタイミングだけは60年前と同じ。60歳以降でも働く意欲が強いシニアが多いにも関わらず、会社を離れた後はその経験や知見をうまく生かすような働き先をみつけることは簡単ではなありません。

 

さらに、「現役世代人口で高齢世代人口を支える」という前提について考えたときに、これまでは3、4人の現役世代で1人のシニアを支えればよかったのですが、人口構造が大きく変わることで見通しが変わっていきます。高齢者を現役世代の人口が支えるとした場合の負担率は、2015年で「2.3人で1.0人を支える」状態ですが、2060年には「1.3人で1.0人を支える」状態になるといわれています。(※1)

 

高齢者の比率も上がり、65歳以上の人口推移をみても、2015年の26.8%から、2035年には33.4%と日本の人口の3分の1がシニアになります。今は「若者の街」と言われている渋谷も、「シニアの街」に変貌していくかもしれません。

 

高齢化の推移と将来推計

そうなると当然、働き方も変わってくる。「60歳、65歳になったら定年を迎えて仕事を引退する」という概念自体が変わっているはずです。こうなる前に、シニアになってもバリバリ活躍してもらうにはどうしたらいいのかを考えなくてはなりません。

グローバリゼーション、エネルギー革命、そして「変化への期待」

2つ目のポイントは、グローバリゼーションの進展です。365日・24時間、世界中の市場がずっと眠らずに動いている一方で、日本における働き方は未だに「9時から18時」が常識となっています。しかし、グローバル市場で戦っていく上で、仕事によっては必ずしもこのような時間の区切り方が適切ではなくなっています。グローバル市場に合わせて、働き方や雇用形態を柔軟化にしていくことも考えるべきです。

 

例えばアメリカでは、「フリーランス」という働き方が一般化しています。画一的な労働条件に縛られることなくプロフェッショナルの仕事を提供できる人が大勢いるわけです。フリーランスという働き方は、日本ではまだまだ主流とはとらえられていませんが、日本でも今後は増加していくはずです。

 

3つ目は、「産業構造の変化」に対応すること。国内では製造業が縮小し、ICTマーケットなどの新しいサービス産業に労働人口を移していく必要に迫られています。しかし、製造業の現場とICTサービスの現場では、求められるスキルや経験がまったく異なります。このように、異なる市場間をまたいでの転職は、現状ではなかなか厳しい。さらにはIoTのような新しい市場ができつつある中、ITと製造業を融合して新たな市場を開拓していかなければならない状況なのに、人材の確保ができていない。雇用だけを考えていると、そもそも人材活用の幅に限界があります。早急に「働き方」の常識そのものを見直して、変革していかなくてはなりません。

 

そして最後に、社会全体の「変化に対する期待」があります。現在これまでになく、働き方が注目されています。そのトレンドを受けてか、企業の取り組みも増えています。女性やシニアの活躍推進、ダイバーシティ経営、副業の解禁など、企業が新しい働き方を推進することに対しての期待がどんどん膨らみ、ようやく「働き方革命」が起きようとしています。

「3社で同時に働く」ことが当たり前の世の中に

先ほども触れたように、アメリカでは人種のるつぼであるという社会的な背景や、世界中から労働者が集まっているという事実から、「多様な働き方」に対しての考え方が非常に進んでいます。

 

2015年9月に実施された労働実態調査「Freelancing in America」によると、アメリカでは労働人口の34パーセントにあたる5,370万人、約3人に1人がフリーランスとして働いています(※2)。若くして独立する人も多く、フリーランスは当たり前。日本に押し寄せている「働き方革命」の波は、こうしたアメリカのような考え方を一般的にしていく可能性があります。

 

過去の日本では、「40年で1社に勤め上げ出世していく」ことが常識でした。ですが今は「40年間のビジネス人生で3回転職してキャリアアップする」ことが普通になってきています(※3)。さらにこれからは、時間や場所や雇用形態にとらわれず「同時に3社で働く」ことも当たり前になっていくはず。そこで、地方企業にも優秀な人材を呼び込むチャンスが出てきます。働く側は「東京か地方か」という選択肢にとらわれず、面白い企業に貢献することで職能を伸ばし、キャリアアップを実現できる。「働き方革命」がもたらす未来は、地方企業と個人の新しい希望につながっていくでしょう。

 

(注釈)

※1 現役世代(生産年齢)を15-64歳とし、高齢者を65歳以上と設定した場合、2060年には1人の高齢者に対して、1.3人の現役世代という比率になるという試算が出ている(内閣府 平成27年版高齢社会白書(全体版) 

※2 2015年調査では、アメリカの労働者の5,370万人がフリーランスとして働いていることがわかった。2014年の調査時からは約70万人、増加している(Freelancing in America:2015、Upwork、the Freelancer’s Union)

※3 20代以上で3回以上転職している人は44%(enミドルの転職 「退職」について ユーザーアンケート(2014年))

 

取材・記事作成:多田 慎介

 

*次回へ続く→第5回 「「人のオープン・イノベーション」で、地方ならではの良さを活かせる方法を見つける

 

*前回までの記事はコチラ

第1回 「地方の中小企業を支えられるのは人」だと知った原体験 株式会社サーキュレーション・久保田雅俊

第2回 従来型の「雇用」では、地方に人は来ない。地方創生の真の課題は、「雇用を創生する」こと

第3回 従来型の雇用を超えて、「プロフェッショナル人材の経験と知見」を循環させる方法

久保田雅俊

サーキュレーション代表取締役。1982年生まれ。
総合人材サービス大手を経て2014年にサーキュレーションを設立。
設立2年半で、国内最大規模となる1万人の独立専門家ネットワークを構築、経営支援実績1000件を突破。
15年、高い志を持つベンチャー起業家に贈られる「北尾賞」を受賞。