「新しい働き方」と「オープン・イノベーション」は今、地方の中小企業が新たな活路を見出すために欠かせない要素となりつつあります。本連載では「”人”が変える地方創生」と題して、この2つの潮流についてじっくりお伝えします。

 

第2回のテーマは、地方創生の真の課題について。地方を元気にするための主役である中小企業には、何が必要なのでしょうか。

 

本記事はサンケイビズの連載「”人”が変える地方創生」との連携企画です。サンケイビズの記事についてはこちらから

東京一極集中は、起きるべくして起きている

「人」に起因する地方創生の課題については今、世の中で広く語られています。一つは内閣府がデータで出していますが、若年人材が毎年10万人規模で東京に流出している(※1)。興味深い点として、国は流入ではなく「流出」と表現していることです。地方の視点で考えたときの、東京一極集中に対する危機感の現れなのだと思います。

二つ目は現金給与額の格差です。都道府県別の平均年収をみると、東京の平均年収600万円に対して、最下位の沖縄県では約350万円となります(※2)。これに対して「東京は地方と比べて物価も生活費の水準も高いのだから、当然じゃないか」という指摘もありますが、生活費についても身近なデータを比べてみることで、格差が実感できます。

たとえば家賃。東京で一人暮らしをすれば、だいたい月に6〜7万円ほどは必要です。東京を除く全国平均で3〜4万円ですので、差額は3、4万円程度(※3)。食費が月2万円はかかるとして、東京と地方の生活費の差は月額5、6万円程度となります。12カ月で考えても60万円程度。しかし実際の現金給与額を見ると、それ以上に大きな格差が生まれているということが分かります。

この状況を考えれば、東京一極集中は当然の流れであると言えるのかもしれません。社会課題というよりは、事象に近い。起きるべくして起きている事実であり、止めようとしないかぎり、今後もこの流れは加速していくでしょう。

バズワード化している「地方創生」

この解決に向けた政策として掲げられているのが「ローカル・アベノミクス」(※4)です。データ管理などを通じた「情報支援」と、交付金などを通じた「財政支援」。橋を作ったり、国家戦略特区を作ったりという財政支援はこれまでも進められてきました。

 

そして今、焦点となっているのが「人的支援」。関連事業として予算を付けられているものが、驚くほどたくさん存在しています。

 

「まち・ひと・しごと」が地方創生における人的支援のテーマですが、あらゆるカテゴリーにおいて、いろいろな分野で「地方創生」が関連付けられており、さまざまな担当省庁から、膨大な数の事業が提案されています。例えば、地方創生推進交付金や社会保障制度の充実(子ども・子育て支援新制度など)には、ケタ違いの予算が振り分けられています(※5)。

 

このように「地方創生」がバズワードのようになっている状況とは反面、「そもそも地方創生とは何なのか」という理解が進んでいないことが課題と言えます。「地方創生と掲げているから良い事業なのだ」というわけではありません。

従来型の「雇用」では、地方に人が来ない

今のローカルアベノミクスでは特に、「仕事と人の好循環づくり」を重視しています。地方の雇用を創出し、新しい人の流れを作る。毎年10万人超を東京にただ流出させるのではなく、回転させる。そして長期的には、若い世代の結婚・出産につなげ、少子化を解決する。シンプルに考えれば、「地方を元気にすること」が地方創生であり、それはつまり「雇用を創生する」ということです。

 

では、雇用を創生するには何をすれば良いのでしょうか? 日本企業の99.7%が中小企業です(※6)。地方の雇用の担い手は中小企業。とにかく中小企業の経営を支援し、元気にしないことには何も始まりません。中小企業の経営を元気にするためには、何よりもまず、社長を支える優れた経営人材が欠かせないでしょう。

 

ここが、地方創生の真のポイントであると考えています。中小企業の経営に必要な人材を集めようというテーマは、国の施策としても打ち出されています。しかし現実的には、東京で活躍する人材が地方の中小企業に興味を持つケースは非常に少ない。従来の「雇用」という考え方では、どうしても限界があります。

 

そこで生かされていくのが、地方の中小企業へフレキシブルに経営参画し、知見をフルに発揮してくれるプロワーカーとのマッチングです。従来の雇用の考え方にとらわれない新しい働き方が、それを可能にしています。地方創生に欠かせない「企業と人の新しいマッチング」のあり方について、次回はもう少し掘り下げてお伝えしたいと思います。

 

取材・記事作成:多田 慎介

 

(注釈)

※1 平成25年(2013年)の1都3県(東京圏)への転入超過数は、15歳〜29歳の若年層で9.8万人(内閣府 東京への一極集中の是正について 平成26年9月17日)

※2 平成27年(2015年)の東京都の平均年収は623万5000円、最下位の沖縄県は同355万6000円(厚生労働省 平成27年賃金構造基本統計調査

※3 1人暮らし(6畳〜12畳未満)の家賃は、東京が6万2021円、東京を除く全国で3万7739円(総務省 平成25年住宅・土地統計調査

※4 2014年6月に政府が策定した経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる骨太の方針)と成長戦略に盛り込まれたキーワード。アベノミクスの成果を地方や中小企業にまで波及・拡大させようとする施策(まち・ひと・しごと創生基本方針2015-ローカル・アベノミクスの実現に向けて 平成27年6月30日閣議決定)

※5 平成28年度(2016年度)は、地方創生推進交付金に1000億円、子ども・子育て支援新制度を含めた社会保障制度に2兆2640億円の予算が割かれている(内閣府 平成28年度予算(案)概要

※6 全企業数に占める中小企業数の割合は99.6%(中小企業庁HP FAQ「中小企業白書について」 

 

*次回へ続く→第3回 従来型の雇用を超えて、「プロフェッショナル人材の経験と知見」を循環させる方法

 

*前回までの記事はコチラ

第1回 「地方の中小企業を支えられるのは人」だと知った原体験 株式会社サーキュレーション・久保田雅俊

久保田雅俊

サーキュレーション代表取締役。1982年生まれ。
総合人材サービス大手を経て2014年にサーキュレーションを設立。
設立2年半で、国内最大規模となる1万人の独立専門家ネットワークを構築、経営支援実績1000件を突破。
15年、高い志を持つベンチャー起業家に贈られる「北尾賞」を受賞。