「新しい働き方」と「オープン・イノベーション」は今、地方の中小企業が新たな活路を見出すために欠かせない要素となりつつあります。本連載では「”人”が変える地方創生」と題して、この2つの潮流についてじっくりお伝えしてきました。

 

第11回では、実際に地方を活性化するための取り組みを進めている西川剛史さんにお話を伺います。西川さんは食品業界大手のマルハニチロ株式会社株式会社シュガーレディを経て独立した、冷凍食品の専門家。「冷凍生活アドバイザー」としてテレビをはじめとした各メディアでも幅広く活躍するほか、自身が設立した冷凍食品の専門店「ベフロティ」の運営にも携わっています。冷凍技術は、どのようにして地方を元気にしていくのでしょうか。

 

*本記事はサンケイビズの連載「”人”が変える地方創生」との連携企画です。サンケイビズの記事についてはこちらから

アイデアが出尽くしている常温商品ではなく、「冷凍」で勝負の幅を広げる

Q:まずは、西川さんの現在の取り組みについて伺えればと思います。

西川剛史さん(以下、西川):

企業や団体、地方の農家に対して、冷凍食品や冷凍技術を軸にした事業開発のコンサルティングを行っています。冷凍食品は生鮮食品よりも日持ちするため、本来は事業の参入障壁が低いんです。しかし、具体的な事業開発のノウハウを持っている人は決して多くはありません。そのギャップを埋めるべく、お手伝いをしています。

 

地元野菜や肉、魚を特産品としている地方の企業や農家からは、「これらを使って加工品を作りたい」というご相談が多いですね。ただ野菜などを売るのではなく、加工品にすることで販路を拡大したいというニーズです。

Q:地方の特産品をお菓子などに加工して、知名度を高めたり首都圏へ販路を拡大したりといったケースは多いですよね。

西川:

はい。「お菓子」や「調味料」などに加工されているケースは多いのですが、これがある種の決まりパターンのようになっていて、差別化が難しくなっているという課題があるんです。野菜にしても、肉や魚にしても、せっかく素晴らしい食品資産があるのに商品企画がうまくいかず、販路を拡大できていないケースが多いですね。

Q:「冷凍」によって、どのような可能性を提案することができるのでしょうか?

西川:

どんな特産品であっても、冷凍技術を活用することによって、商品開発の幅を広げることができます。

例えばマッシュルームを常温で売ろうと思ったら、「レトルトカレー」などのアイデアに限定されがちです。常温ではどうしても「レトルト」や「缶詰」に向かいがちで、アイデアが出尽くしている感がある。しかし冷凍することを前提に考えれば、ハンバーグにも使えるし、コロッケの具材にも使えます。冷凍にすることで、一気に勝負の幅が広がるんです。

ユニークな商品による販路拡大で地方の農家を救う

Q:「地方の特産品をどう売り切るか」ということが課題になっているのですね。

西川:

そうです。地方の農家では野菜を売り切れず、コスト面を考えれば収穫せずに捨てた方がいいと判断されることもあります。せっかくの特産品が消費されずに捨てられていくというのは非常にもったいない。地方を起点にした冷凍食品事業に多くの企業が参入していけば、農家が救われます。

 

農家が自ら取り組み、新たな特産品を生み出しているケースもあります。静岡のねぎ農家が主体となって設立された農業生産法人では、冷凍食品の「ねぎコロッケ」を開発して売り出しました。これは私が運営する「ベフロティ」でも取り扱っている商品なのですが、かなり人気が出ています。冷凍技術を活用してユニークな商品を開発し、販路を広げていくことで、こうした成功例はどんどん増えていくと思います。

Q:西川さんは「冷凍生活アドバイザー養成講座」の監修・講師も務められていますね。これはどのような経緯でスタートした取り組みなのでしょうか?

西川:

『もっとおいしくなる超・冷凍術』という著書を出したことがきっかけです。家庭でおいしく調理し、栄養を効率的に摂取するための冷凍術を解説した本なんですが、これを見た日本野菜ソムリエ協会さんからの依頼で資格制度を作ることになりました。

 

主婦の方や、野菜や果物の専門知識を持つ野菜ソムリエや、青果市場に勤務しているプロの方も対象にしています。冷凍というと「味を犠牲にして保存する」というイメージを持たれがちですが、賢く活用することで味や食感を良くしたり、食材が持つ栄養価を高めたり、料理の時短につながったりといった効果につながります。2016年8月に開始した第1期の募集は、おかげさまで満員となりました。冷凍の知識や活用方法を広める活動には、今後も力を入れていきたいと思っています。

冷凍食品の専門家が商品をセレクトし、新たな販路を作る

Q:現在の活動に至るまでの西川さんのキャリアについても、ぜひ伺いたいです。

西川:

私は社会人になってからずっと、冷凍食品一筋です。大学時代は食品栄養関連の分野を学んでいたんですが、「そもそも、多忙な現代の生活では健康な食事ができないのではないか」という課題感を持っていました。忙しい毎日でも健康な食事を摂るためには何が必要か、ということをずっと考えていて、冷凍食品の分野に興味を持つようになったんです。

 

マルハニチロでは商品を作る工程や生産管理に携わり、シュガーレディでは「冷凍食品×健康」をテーマに商品開発に没頭していました。

 

Q:独立を考えるようになったのには、何かきっかけがあったのですか?

西川:

マルハニチロ時代から、個人ブログで冷凍食品に関する情報発信を続けていたんです。それがきっかけでテレビ出演のオファーが来るようになりました。会社員の立場ではなかなか自由に行動できない面もあり、「冷凍生活アドバイザー」としてより幅広く活動していくために独立しました。

 

「どうせやるなら消費者と直接接することができる店舗型のビジネスを」と考え、冷凍食品のセレクトショップを設立しました。スーパーマーケットなどでも冷凍食品はたくさん陳列されていますが、特売商品として安く売られることが多く、専門家が面白い商品をセレクトしている店はなかなか珍しいのではないかと。

地方ならではの食文化を全国に広げていきたい

Q:取り扱い商品はどのような観点でセレクトしているのでしょうか?

西川:

日本の会社が日本国内で製造しているものに絞り、その中から食品添加物が少ないものを選んでいます。シンプルに、食材を生かしたものが多いですね。「ブイヤベース」や「しめさば」など、珍しい商品も置いています。

 

私はアクティブ野菜ソムリエの資格も持っているのですが、その知識を生かして農家から直接仕入れた野菜も並べています。日本全国に飛び、可能な限り畑を訪れて仕入れるようにしています。

Q:西川さんは今後、どのような形で地方の活性化に関わっていきたいとお考えですか?

西川:

まずは私の専門分野である日本の冷凍食品市場を、より活性化させたいですね。その取り組みを通じて「地方の食」を守っていきたいと思っています。

 

良いものを作っている農家や企業は地方にたくさんありますが、商品開発や販路開拓がうまくいかずに、生産をあきらめてしまうケースも多いんです。冷凍の技術を導入することでウェブやアンテナショップへと販路が広がり、地方ならではの食文化を全国に広げていくことができる。これまでにないような商品開発に貢献し、ちゃんと商品が売れる場を増やしていきたいですね。

 

取材・記事作成:多田 慎介

専門家:西川 剛史

冷凍食品メーカーでの工場勤務や商品開発の経験を生かし、冷凍生活アドバイザーとして活動。
冷凍食品のプロとしてテレビ番組「マツコの知らない世界」、「ソレダメ!」、
「世界が驚いたニッポン! スゴ~イデスネ!!視察団」、「はなまるマーケット」などに出演。
冷凍食品のセレクトショップ「ベフロティ」を設立し、その魅力を発信し続けている。
アクティブ野菜ソムリエとして、野菜に関したイベントや講座も開催。
著書に『もっとおいしくなる超・冷凍術』(洋泉社)がある。