今回取り上げる事例は、全国で学習塾を展開する企業での粉飾決算です。

これまでに紹介した東芝やオリンパスの事例とは異なり、当該企業は第三者委員会を設置するなど、素早い行動を取ったおかげで、罰則といえるものは課徴金の勧告のみ。上場停止・廃止といった処分はありませんでした。

ですが、粉飾決算は許されることではありませんし、築き上げてきた社会的な信用までも失ってしまう行為です。
売上をよく見せたい気持ちもわかりますが、不正であることをしっかりと肝に命じておきましょう。

架空の授業から契約書の偽造まで、ありとあらゆる不正に手を出した学習塾運営会社

Q:粉飾決算には、どのような手法があるのでしょうか。

A:「粉飾決算」という言葉で皆さんがイメージされるのは、売上を粉飾することではないでしょうか。
売上を粉飾する手段としては、架空売上や売上の前倒し計上などがあります。

経営者にとっても従業員にとっても、自分の会社が部署の売上が少ないよりは多い方が嬉しいでしょう。また従業員にとっては、営業成績が自分の昇給や昇進、場合によっては降格につながることもあるでしょう。

今回は、こうした営業プレッシャーから不正な売上を計上していた事例をご紹介します。

当該会社は全国で100校以上の学習塾を運営しています。売上目標を達成するために粉飾に手を染めてしまいました。その主たる手法を以下に挙げています。

① 生徒が未消化授業を残して退会や転居した際の未消化授業売上を仮装して売上を増加
② 生徒が前日までに事前連絡がなく授業当日に欠席した場合、該当する授業は消化されたものとして売上が計上される「当日欠席」を仮装して見かけ上の売上を増加
③ 売上管理システムに不備があり、サービス授業についても講師に指導料を払った場合、有料授業を実施したものとして売上が計上されてしまった
④ 当該システムの不備には、授業料を値引きして契約した場合に、実際の契約額ではなく値引き前の授業料により売上が計上されてしまった
⑤ 映像講座について、契約書の日付を遡らせて売上計上をした
⑥ 保護者との間で契約内容がまとまった場合、契約書を交わす前に署名押印のない仮契約書で売上を計上した
⑦ 契約成立の見込みがない場合でも契約書を勝手に作成して売上を計上した

これを見ただけでも、非常に多様な粉飾手法が用いられていることがわかると思います。

増収・増益を維持するために、6年間に渡り会社ぐるみで不正を実行

Q:それぞれの粉飾手法には、どのような特徴があるのでしょうか。

A:それでは、上記の6つの項目について詳細を見ていきましょう。①や②などは学習塾のビジネスモデルが故に考えられる粉飾手法で、意図的にデータを改ざんして売上を水増ししようとしています。

③と④はシステムの不備ではありますが、これまでに改善しようと思えばできていたものをしていなかったということが問題です。⑤、⑥、⑦についてはどのような会社でも起こり得る粉飾手法だと思いますが、通常であれば管理職等の承認や牽制があるべきで、発生してはならない粉飾です。

しかし、本件では売上目標達成のために現場の管理者が中心となって、それぞれ担当部署の売上目標を達成するために、部下社員に売上の仮装を指示して粉飾決算を実施していたということです。

なお、この会社が設置した第三者委員会によると、不正が発覚する2014年2月までの過去6年間に、売上83億円を水増ししていたそうです。毎年20%の成長を目標に掲げ、達成できなければ部下も含めて降級・降格になるというプレッシャーで不正に手を染めていたという話は、以前にご紹介した東芝の事例と共通するものがあるように思えます。

営業成績至上主義の会社は多いと思いますが、売上のノルマの達成のために上長が自ら不正指示をしてしまっていたのでは、会社組織としては非常に残念ですね。

専門家:江黒崇史
大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。
ノマドジャーナル編集部
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