今春オープンしたセトノウチ「島モノ家」では、島のお土産を購入することができる。

 

小豆島(しょうどしま)は瀬戸内海に浮かぶ離島。人口約29000人、面積約150k㎡。瀬戸内海では淡路島に次いで2番目の大きさだ。オリーブ・醤油・そうめん・佃煮・ごま油などの生産が盛んで日本有数の名産地となっているほか、小説「二十四の瞳」の島としても知られる。近年、若者・子育て世代を中心に移住者が増加。瀬戸内国際芸術祭が開催されたり、小豆島高校野球部が甲子園出場を果たしたりと明るいニュースが多い。

 

首都圏への人口・商業施設の集中から脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、人気のある離島ではどのような地域づくりが行われているのだろうか?そこで、小豆島へ5年前に移住した筆者が、小豆島で活躍する企業・事業・人について取材・発信していく。

 

第3回は、「迷路のまち」で古い建物やモノを活かしながら新しい価値を創造するため、アートギャラリーやカフェなどを展開しているMeiPAM(メイパム)の代表で、小豆島ヘルシーランド株式会社・地域事業創造部マネージャーの磯田周佑さんにお話を伺いました。

 

後編では、若者が帰ってこられる場所をつくるために現在行っている取り組みと今後の展望を中心に、お話をお聞きしました。

 

観光事業をきっかけに地域に根づく事業をつくりたい

Q:課題に対しての取り組みは?

最近少しやり方がわかってきた部分もあるんです。どのようにすれば、MeiPAMがよくなるのか、小豆島の観光がよくなっていきそうなのか少しだけ感覚をつかみ始めていて。でもまず何よりもMeiPAMを盛り上げて、実績を作る事が重要だと思っています。

 

実績をひとつ作った上で、同じような方向性を持った人たちと協力しながら、バラバラに向いている小豆島の観光というものを1つずつでも整えていく。そういう活動が、地道ながらもひとつの答えに結び付いていくのではないかと。島に根を張ってひとつの事をここまで成し遂げたなって認めて頂くのが、島の人たちに本当の意味で受け入れられる環境づくりなんです。
何も成し遂げていないのにギャーギャー言ったって、それは本当の意味で受け入れていただけない。「あぁ、あれはようやった。お前さんあそこまでやったんやな」という、自分の居場所を作る。それを経験として関係づくりを進めていく中で、小豆島の観光づくりの方向性を見出していきたいなと思っています。 

1階が昔懐かしい駄菓子屋、2階が全国の妖怪を展示した「モノノケ堂」

Q:地域社会に向けて行っている取り組みは?

MeiPAMは観光スポットであって、海外の人も含め島の外の人に観光を楽しんでいただき、そして同時に適切なお金も使っていただかなくてはならない。今はその事業に集中しているので、いわば「外向き」の仕事をしています。

 

地域社会に貢献する方法は様々だと思うんですよね。実は簡単そうに思えて一番難しいのは、事業を継続ししっかりと地域に税金を納める事です。それが地域社会と連動しているわけですね。それができないと、何を言ってもボランティアになってしまうし、それでは長期的に継続しない。継続させるために地域で事業を行う必要があるのです。
その上で、地域社会との連動した取り組みとしては、例えばお土産屋や食事処で扱う地域物産のストーリーや生産者の思いをしっかりお客様に伝えて、売り上げに貢献させて頂くということです。地域の新しい価値を見出し磨き上げ、適正な利潤を生みだし、それを地域社会と結びつけるという事を大切にしたいです。

かつての醤油屋や米屋の倉庫を利用したMeiPAM2の倉庫内

帰って来られる選択肢を作っていく事が大人の役目

Q:今後していきたい事は?

島には高校がありますが、卒業と同時に都心の大学や専門学校に通うため、島を出る子供たちが大半です。
僕がやりたいと思っていることは、その子たちに帰って来られる、もしくは島を出なくてもよいという選択肢を作ること、島でしっかりと働いてもらえるような環境を作るということです。島に帰ると言っても、ぷーたろうで帰ってくるわけにいかないですよね。雇用機会を作っていくことは事業を拡大する中での使命だと思っています。

 

今年も繁忙期に地元の土庄(とのしょう)高校のOB・OGの学生さんに短期アルバイトとして働いてもらいました。最初は特に地元出身の学生さんという制限はなくオープンに募集をしていましたが、土庄高校のOGの子が友達に声をかけてくれたり、近所のお店のご主人から「娘が夏休み帰省してくるのでアルバイトさせたい」と紹介頂いたりして、結果的に土庄高校出身の大学生が4名ほど集まった。
僕はすごくよかったなと思っていて、1つのパターンができますよね。夏休みに東京や大阪で過ごすのもいいけれど、帰省するのなら故郷でアルバイトができる。彼ら彼女らは、高校まで過ごしていた地元を違う目線で見られるようになっているはずです。彼らに変化はすごくあったと思いますよ。

 

島の外の人たち、観光客の人たちと接するのが初めてで刺激を受けたり、海外のお客様に英語を使う機会があったり。自分で地道に勉強していた事を地元で活かせるタイミングがあるという事はすごく刺激になると思います。
地元のためというのが無意識に彼らの中にあって、東京や大阪でアルバイトをするよりも体験を自分ごと化しやすかったのではないかと。アルバイト期間が終わったとき「すごく楽しかったです」と言ってくれました。1人の子は教育学部で教職免許を取ろうとしていて将来的には土庄小学校で先生やりたいって言っていましたね。

話がはずむcafé de MeiPAM(カフェ・ド・メイパム)。

Q:若い人に戻ってきてほしいという想いが根幹にあるのですか?

島を出るかどうか、出て行ったあと戻ってくるかどうか、それは様々な事情もあると思いますし、子どもたちの意思だと思います。

 

先ほど申し上げた通り、大人の役目は子どもたちに「帰ることもできるんだ」という選択肢を残す事だと思っています。戻ってくるかどうかはわからないけれど、戻ってきても大丈夫な環境を整えるのが島の大人の役目だろうと。大都市の魅力もあるけれど、島の魅力もあるからぜひ好きなほうを選んでくださいと提案できないのは大人の怠慢だと思うわけですよ。だから戻ってきてほしいというのはすごくおこがましいけれど、大人はもっと努力せないかんとは思います。

お土産は島にちなんだものばかり。

Q:一方で、志ある若者が帰ってきてうまくいかないパターンもありますよね?

それは僕らの世代(30~40代のミドルエイジ)が頑張らないといけない。会社でいうと僕らは中間管理職世代ですよ。これまで島を支えてきてくださった目上の方々の意向を継承しながら、今の時代にあった良い部分を取り入れて進化させつつ、若い子たちがしっかり自分の力を発揮できるような環境づくりをしていく。
ただ雇用を増やせばいいという話ではなくて、以前と今では時代が違うわけですから、若い子たちが活躍できるような場所を作れるように中間管理職が頑張っていくってことですよ。どんな組織でもそういう課題って必ず出てくるので、僕らが頑張らないとダメです。

MeiPAM1の展示品。シーズンごとに作家が変わっていく。

MeiPAMの引力を強くしたい

Q:今後のMeiPAMの展望は?

単にMeiPAMを大きくするという事ではなくて、引力を強くしたい。小豆島にもっと多くの人に来てもらって、見たり聞いたり感じたりしてもらう機会を増やす。MeiPAMをきっかけに小豆島に来てもらう人たちを増やす。それが今やりたい事です。

 

MeiPAMの大きな活動方針は『文化活動を通じて小豆島の魅力を発信し町に賑わいを取り戻すこと』なので、それ以上の事もそれ以下の事もやりません。文化活動を通じて小豆島の魅力を発信したり楽しんでいただいたりする環境を、この町でもっともっと整えます。今回新しく(食事処の)島メシ家、(お土産物の)島モノ家、そしてアートをもう1つ作った。お蔭さまで引力がさらに強くなったと思います。

 

ある程度の「面積」は必要で、空き家もたくさんあるのだからそこに価値を足していかないとただの過去の遺産になってしまう。僕らの知恵と力が及ぶ範囲で、そこに価値がつけられればそれはやるべきだし、野放しにしていたらゴーストタウンになっていく。地域の課題が空き家対策なら、僕たちはMeiPAMの活動方針に沿ってそれに取り組むべきです。
空き家を活かして観光客に来ていただければ、空き家の問題と瀬戸内・小豆島の観光事業をどう発展させるかという問題の双方の課題を解決できるわけです。今後、色々な方が色々な事をおっしゃるとは思うのですが、それをはねのける「よそ者力」が僕にあればいいなと思う。20~30年後、意味が出てくる事をしていると思っています。

直近でオープンした島モノ家・島メシ家・MeiPAM5。

 

MeiPAM(メイパム)の取材を通して感じたのは、代表の磯田さん自身の変化だ。3年半前初めてお会いした時は、非常に能力は高いものの「とりあえず小豆島に来てみました」という印象の人だった。それが現在「小豆島は、自分の生きていく島」と言い切り、未来を見据えて腹を決めているように見える。その事が、MeiPAMの強さであり、人的資源の厚さにつながっていると感じる。今後も楽しみな施設である。

専門家:城石 果純

早稲田大学人間科学部卒業後、株式会社リクルートに入社。
入社2年目に第1子を出産した事で、時間あたり生産性の概念に興味を持つ。
第2子出産時に小豆島に移住。それ以後、時間と場所に制約を抱えながら
MVP・通期表彰などの事業表彰を獲得し続けた事で、
リクルートグループがリモートワークに取り組むきっかけを作った。
現在は、「地域と組織のサポーター」としてフリーランスで活動。小豆島在住の3児の母。
地域の良いものを掘り起こしてコーディネートする事と「ひとのチカラ」を活かす事を大切にしている。