ビジネスノマドとして、自身のスキルを生かして働いていくときに重要なのが「セルフブランディング」です。自分をどういった領域の専門家として顧客に見られたいのか、数ある専門家の中で自分をどのように差別化していくのか、何によって顧客に選ばれたいのか、その設計がビジネスノマドとしてのキャリアにおいてカギを握るといえます。

 

ウェブマーケティングから営業支援、組織構築支援まで、幅広い領域でクライアントの事業拡大に貢献する本気ファクトリー。代表の畠山和也さんは、自身がビジネスノマドとして数多くの企業に関わり、「根雪マーケティング」というコンセプトでリピーター獲得を推進してきました。

 

「根雪マーケティング」という自身のブランディングは、どのようにして形成されていったのか。本連載では、畠山さん自身の経験とプロセスを赤裸々に語っていただきます。そのストーリーには、ビジネスノマドとして活躍する上での大きなヒントがありました。第1回では、独立に至るまでのキャリアについて語っていただきます。

「その程度の人はいくらでもいるよね」というキャリア

雇用される存在として会社のブランドがある状態ではなく、独立した存在としてマーケットと勝負していくときに、自分自身の価値を顧客に語るための「セルフブランディング」は欠かせません。私が独立(実は二度目なのですが)して本気ファクトリーを立ち上げた際にも、もちろん自身のキャリアに基づくセルフブランディングを考えました。

 

しかし、当初に私が顧客に対して語っていたそれは、「似たようなキャリアを持つ他のビジネスノマドと何が違うのか」を伝えられるものではありませんでした。身もふたもない言い方をしてしまえば、「その程度の人はいくらでもいるよね」という感想を持たれるようなストーリー。これではビジネスノマドとしての成功は得られないと痛感したのです。

 

この連載の第1回ではまず、そんな私自身のキャリアについて語りたいと思います。

最前線で培った営業力

私は新卒でソフトバンクに入社し、グループの日本テレコムで通信系商材の営業をするところからキャリアがスタートしました。何もないところから商品資料だけを頼りに顧客ベネフィットを考え、リストを自分で作り、ひたすらテレアポをして……。そんな中で、きっちりやって営業成果を出したのです。これは自分の中にもともとある「真面目さ」が奏功したのだと思います。

 

その後はリクルートに転職し、求人媒体による採用支援に従事しました。ここでのポイントは二つあって、一つは広告制作。私が担当したクライアントで、内定を出せなかったところは、在籍した4年間で1社もありません。好不況にもよりますが、一般的には30%くらいは内定が出せない求人が出るのが普通と言われています。この経験を通して得られたのは、ターゲットに効果的に届ける広告設計のノウハウ。今に続く「マーケティング力」の基礎になっています。

 

もう一つは、300社にのぼる自分の担当クライアントは一度も競合に流れなかったということです。業界的には競合他社が多く、うまく採用できないとか、営業担当に不満があるといった理由で担当クライアントが競合に掲載してしまうことも多いんです。でも私の場合、それは一度もありませんでした。当時はリクルートのシェアが逓減していた時期。その中で、4年間通してリプレイスされていないという事実はささやかな自慢です。この経験は、現在私が掲げている「根雪マーケティング」というコンセプトにつながっていくことになりました。

独立の失敗、「再サラリーマン」経験で気付いた経営者視点

リクルートを28歳で辞めた私は、組織コンサルをメイン業務として起業しました。「20代のうちに起業に挑戦しておきたい。失敗してもまだ取り返しがきく」と思って動いたのです。しかし、その挑戦は1年しか持たず、失敗に終わりました。

 

当時はキャッシュフローの考え方も分かっておらず、クライアントへ価値提供できる軸も定まっていない状態。私はもう一度サラリーマンに戻ることにしました。入社したのは、電子書籍アプリなどを開発するスターティアラボです。

 

同社では、「自分自身の生産性」について強く意識するようになりました。リクルートのときはまず与えられた営業目標があり、それを達成すれば自分は好きな仕事ができるという感覚で、自分の給料と与えられた目標がどうリンクしているのか、あまり考えていなかったのです。起業を経験し、サラリーマン戻ったときに、「自分が叩き出した売上と給料は見合っているのか。それが会社に与えられた目標とどう関係しているのか」ということを強く意識するようになりました。

 

その頃は電子書籍の「ActiBook」という商材を売っていたのですが、当時はまだ他のサービス開発が追いついていないこともあって、1社に対しての売り切りの要素が強い状況でした。これでは営業成果を最大化できないと考え、リピート型に変え、「根雪」にしていくための方法を考案。ウェブサイト構築を付加価値として提供し、電子書籍とともに売っていくスキームを自分で作り上げていったんです。

 

「一度受注したら終わり」という営業も多い中、私のクライアントは2商材以上受注している「リピート率」が80パーセント以上でした。会社全体の営業戦略に対しても、少なからず好影響を与えられたのではないかな、と思っています。リピーター作りという意味では、リクルート時代とは違った意味での「根雪」づくりができたと言えると思っています。

同じことを語れるビジネスノマドは山のようにいる

そんな経験を経て、私は2014年に再び起業に挑戦。本気ファクトリーを設立しました。当時はまだ「根雪マーケティング」というコンセプトはありません。営業としての実力やリピーター作りの経験、そして「真面目さ」といった不確かな要素をブランドとして顧客に伝えている状況でした。

 

営業キャリア出身の方には、知らず知らずのうちに同じような価値を顧客に語っているケースが多いのではないでしょうか。しかし、それまでに歩んできたキャリアも含めて、同じことを語れるビジネスノマドは山のようにいるのです。これでブランディングしてしまうと私も顧客も「しんどい」だけ。独立後、程なくして私はその現実を思い知りました。

 

「セルフブランディングを明確にする自己紹介資料を作ろう」。私がそう決意したのはその頃です。次回は、独立後の具体的な失敗例も交えて、セルフブランディングに向き合うまでの体験をお伝えしたいと思います。

 

取材・記事作成:多田 慎介

専門家:畠山 和也

本気ファクトリー株式会社代表取締役。
ソフトバンク、リクルート、スターティアラボ、ラクスルなどでマーケティング・営業を歴任し、本気ファクトリーを設立。
顧客をリピーターに変える「根雪マーケティング」をコンセプトに、自身が第一線の営業として活躍するのみならず、クライアントのマーケティングや組織構築にまで踏み込んだ施策を実行。メーカーや商社、広告代理店、小売などさまざまな業界を手掛け、大手企業から中小企業まで幅広いコンサルティング実績がある。