ビジネスノマドとして、自身のスキルを生かして働いていくときに重要なのが、「セルフブランディング」です。自分をどういった領域の専門家として顧客に見られたいのか、数ある専門家の中で自分をどのように差別化していくのか、何によって顧客に選ばれたいのか、その設計がビジネスノマドとしてのキャリアにおいてカギを握るといえます。
ウェブマーケティングから営業支援、組織構築支援まで、幅広い領域でクライアントの事業拡大に貢献する本気ファクトリー。代表の畠山和也さんは、自身がビジネスノマドとして数多くの企業に関わり、「根雪マーケティング」というコンセプトでリピーター獲得を推進してきました。
セルフブランディングの実践ストーリーから学び、その方法を考える本連載では、前回は、自己紹介資料作りの重要性に気付くまでの畠山さんの失敗体験を綴っていただきました。自身のコンセプトを見出すまでにはどのような苦労があったのか。第3回では、自己紹介資料作りを相談した新規事業創出のプロ・守屋実さん(本メディアでのインタビュー https://nomad-journal.jp/archives/442)とのやり取りを中心に、振り返っていただきます。
新規事業プロのサポートを受けつつ、「オンリーワンの価値」を考え続ける苦しい日々
私自身が「根雪マーケティング」というコンセプトを固め、自己紹介資料を完成させるまでには、長い時間をかけて何度も何度も見直しを行いました。そのプロセスは一人きりで向き合ったものではありません。数多くの新規事業開発を手掛ける守屋実さんにアドバイスをいただきながら、「自分の本当の価値は何なのか」を伝えるための自己紹介資料作りを始めました。
普段はクライアント企業のことをこまかく分析できているつもりでも、自分自身のことになると思考停止してしまって、当初は何をアウトプットするべきなのかもまったく見えてきません。守屋さんご自身は「新規事業のプロ」という明確な立ち位置を築いていますが、私の場合はずっと営業をやってきたというキャリア。何か特色があるわけでもないと考えていました。そのため、「これで何かのプロとしてのアウトプットができるとは思えない」と感じてしまっていたのです。
それでも、何度も守屋さんに話を聞いていただき、「自分自身のオンリーワンの価値」をコンセプト化していきました。ダメ出しを受けるだけで、4カ月はかかっています。この4ヶ月は本当に苦しい思いをしました。
振り返ってみると、このプロセスは自分一人ではとても持たなかったのではないかと思います。守屋さんが伴走してくれたことで「この人の気持ちには応えなくてはいけない」という気持ちになりました。何より、守屋さんの自己紹介資料がご自身の仕事をスムーズに進めるために非常に役に立っているという話を聞き、大きなモチベーションとなったことを覚えています。
得意領域を発信し、価値発揮量を増やすために
それまでに、私はすでにビジネスノマドとして一定の成果は出していました。さまざまなミッションを担当し、実際に自分はできるつもりでいたのです。クライアントからも「ぜひいろいろな領域で力を貸してください」と声を掛けていただきました。しかし実際のところ、クライアントが私に声を掛けてくれた一番大きな理由は、「彼は一生懸命だから」ということでしかなかったのだと思います。経験がなくても何とか頑張ってくれるんじゃないか。そんなぼんやりとしたクライアントの期待値に、何とか応えているような状況でした。
「一生懸命やらなければいけない」ということは、「時間当たりの価値発揮量が少ない」ということでもあります。逆に言えば、当たり前にできることで稼がないと自分の時間当たりの単価は上がらないし、トータルの価値発揮量も少ないということ。それはクライアントにとっても自分自身にとってもマイナスです。自分が得意とし、すぐに価値発揮ができるフィールドはどこなのかを明確にする意味でも、セルフブランディングは重要なのです。
ただの職務経歴書ではない。独立する際に必須の「ノマド自己紹介資料」
自己紹介資料作りを相談した守屋実さんは、ラクスルやケアプロ、ジーンクエストといったスタートアップから大企業の新規事業まで、複数社で支援を行っています。そんなご自身の経験から、「1年365日、1日24時間という限られた時間の中で持てる仕事には限界がある。得意なところでやらないと価値発揮の総量が減ってしまうよ」とアドバイスをいただきました。守屋さんが作ったご自身の自己紹介資料も見せていただいたのですが、守屋さんという人が何者で、どんなブランドを持っているのかが明確でした。
守屋さんは独立後、すぐに自分を説明する資料をまとめ、それらを何度も練って作り上げました。そして完成した後も、新しいプロジェクト実績や経験を取り入れて高頻度で更新しています。ビジネスノマドの自己紹介資料はただの職務経歴書ではなく、プロジェクトの実績や何を知見として獲得したかを含めた情報を入れることで、「自分は何の専門家か」「自分の価値は何か」という自身のブランディング、PRしたいところを絞って提示できるものになっています。
翻って、それまでの自分は「ただのいい人」。クライアントに「自分の価値は何だと思いますか?」と聞いてみると、「畠山さんはいい人だから裏切らないと思います」という声がとても多かったのです。「プロが”いい人だから”という理由だけで仕事をもらっているなんて、ダサい……」。私は率直にそう思い、自身のブランドが明確に伝わるような自己紹介資料を作らなければならないと強く感じました。
しかし実際に取りかかってみると、これは想像以上に大変な作業でした。守屋さんからのアドバイスを受けて最初に私が作ったのは、単なる会社紹介の「サービス資料」。「ウェブマーケティングをやっています」ということは何となく伝わるのですが、そうした事業を展開している会社は世の中にいくらでもあります。一度完成はしたものの、自分自身でもその資料に価値を感じず、放置していました。
その半年後に再び守屋さんから「自己紹介資料をもう一度作りなよ」とアドバイスをいただいたのですが……。ここから納得がいくものをアウトプットできるまでには、さらに長い時間が必要でした。
取材・記事作成:多田 慎介
専門家:畠山 和也
本気ファクトリー株式会社代表取締役。
ソフトバンク、リクルート、スターティアラボ、ラクスルなどでマーケティング・営業を歴任し、本気ファクトリーを設立。
顧客をリピーターに変える「根雪マーケティング」をコンセプトに、自身が第一線の営業として活躍するのみならず、クライアントのマーケティングや組織構築にまで踏み込んだ施策を実行。メーカーや商社、広告代理店、小売などさまざまな業界を手掛け、大手企業から中小企業まで幅広いコンサルティング実績がある。