ビジネスノマドとして、自身のスキルを生かして働いていくときに重要なのが、「セルフブランディング」です。

 

本連載では、ビジネスノマドとして数多くの企業にかかわる畠山和也さんの「根雪マーケティング」という自身のブランディングがどのようにして形成されていったのか、そのプロセスを語っていただきます。第2回では、本気ファクトリーの事業コンセプトと、それが形になるまでの苦労について。自己紹介資料を作るきっかけになった思いを綴っていただきました。

営業コンサルの枠を超え、事業を変える仕組み作りをハンズオン型で主導

私は現在、営業職でのキャリアを生かして、事業構築全体や商品企画をクライアントとともに考え、その中で特に営業面での支援に注力しています。私自身の会社である本気ファクトリーのほか、ビジネスノマドとして4社、顧問として1社に参画しています。

 

例えば、そのうちの1社は大学生向けのキャリア教育事業を手掛けている企業で、大学生からお金を集めて授業を行っています。よりマネタイズできる事業体制を作るために、外部企業からスポンサードを集められるような商品開発を進めているところです。単純に「広告を取ってきます」という話ではなく、事業の仕組みそのものに踏み込んでいくので、結果的に事業コンセプトを変えるような提案につながることもあります。

 

営業のコンサルテーションという事業は「既存の商品・サービスをいかに売るか」という軸で語られることが多いと思いますが、私がやっていることはその概念よりも広いと考えています。紙のデザインをメインに手掛けるクライアントのケースでは、新しくウェブ事業部を立ち上げ、軌道に乗せることが大きなミッション。もともとの事業領域を超えて成長していこうとするときに、どのようなスキームが必要で、どのようなアクションを起こすべきか。それを俯瞰して提案し、実行に移しています。

 

なぜ新しいことに挑戦したいのか、どんな事業を伸ばしていきたいのか。「それは本当に儲かるんですか」「事業として成り立つんですか」という核心部分を突き詰めていき、その後は実際にハンズオンで動かしていきながら、クライアントを増やしていく。営業という切り口ではあるものの、マーケティングもやるし、新規事業開発もやるし……といった形で、従来の営業コンサルトは違う存在として受け入れられるようになりました。

 

こうした価値を発揮するため、私はほぼすべての企業に毎週顔を出すようにしています。「月一回」などではなく、現場を重視したハンズオン型。営業現場にも同行し、その先のプレゼンや納品に至るまでの過程もフォローします。その中で、自然と人材育成がミッションとなっていくこともあります。山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば人は動かじ」を地でいくようなイメージです。

「何をやっているのかよく分からない」。自分だけのコンセプトにたどり着くまでの苦労

こうした事業を端的に表すコンセプトとして掲げているのが「根雪マーケティング」。「根雪」は、降り積もった雪のいちばん下にあって、冬の間中ずっと解けずに残っている「積雪の基礎部分」のようなものです。新しく積もった雪は冬の晴れ間に解けてしまいますが、根雪は春まで残ります。

 

企業の活動に置き換えて言うなら、これはずっと付いてきてくれるリピーター顧客のことを指します。新規顧客をゼロから開拓していくことはもちろん重要ですが、同時にリピーター顧客を育てていくことで、将来的な営業コストの圧縮や事業の効率化につながる。こうした提案と実行を「根雪マーケティング」と表現しました。このコンセプトにたどり着くまでには、失敗や苦労を繰り返しています。

 

本気ファクトリーとして独立し、1年が経つ頃には、いろいろな仕事をいただくようになっていました。営業や新規事業企画、サービス企画、ウェブマーケティングなど、節操なく何でも挑戦。「立ち上げの時期はそういうものなのだろう」と考え、任されたことはとにかくやるようにしていたのです。

 

その結果、「何をやっているのかよく分からない」という感じになってしまい、さらには自分にとってアンマッチな仕事も出てきてしまう状況になっていました。営業のプロだからと紹介されて新規開拓にも取り組んでいましたが、中にはまったく知識がない商材も……。成果を出せずに終わったこともありました。

自分も顧客も「両方がしんどい」状態に。セルフブランディングを考え始めたきっかけ

営業としては、コミットメントして半年ぐらいそれだけをやり続ければ、どんな商材でも売れる自信はあります。しかし、パラレルでさまざまなプロジェクトに取り組み、短期的に成果を残さなければいけないという状況では、そんな悠長さは許されませんでした。

 

必然的に、成果を出しやすい商材、出しにくい商材が明らかになっていました。過去に自分が扱っていた領域であれば成果を出しやすいものの、そうでない領域は苦戦の連続。基本はすべて同じで、「商品情報をちゃんと知って、それを求めるマーケットを探しあてる」のが営業の仕事。とはいえ、「土地勘があるかないか」で成果につながるスピードは変わってきます。私の観点から見れば、「しんどい割には全然儲からない」という現実もありました。

 

それは顧客としても成果が出ていないときでもあり、「私も顧客も両方がしんどい状態」です。自分の価値を最大限に発揮するためには、何が必要なのか。そもそも自分の価値とは何なのか。自己紹介資料を作り、セルフブランディングを明確にしなければならないと考え始めたきっかけでした。

 

取材・記事作成:多田 慎介

専門家:畠山 和也

本気ファクトリー株式会社代表取締役。
ソフトバンク、リクルート、スターティアラボ、ラクスルなどでマーケティング・営業を歴任し、本気ファクトリーを設立。
顧客をリピーターに変える「根雪マーケティング」をコンセプトに、自身が第一線の営業として活躍するのみならず、クライアントのマーケティングや組織構築にまで踏み込んだ施策を実行。メーカーや商社、広告代理店、小売などさまざまな業界を手掛け、大手企業から中小企業まで幅広いコンサルティング実績がある。