前回はトラック運送業界の長時間労働の解消に向けた取組事例を見ました。今回はソーシャルキャピタルという視点から、ワーク・ライフ・バランスの要素を探ってみることにしましょう。

1.ワーク・ライフ・バランス浸透・定着に向けた10のポイント

内閣府の「仕事と生活の調和推進室」が公表している「ポイント・好事例集」(http://wwwa.cao.go.jp/wlb/research/wlb_h2703_02/chapter4.pdf)には、長時間労働を解消するために有用な多くのヒントが含まれています。そこには、ワーク・ライフ・バランス浸透・定着に向けた10のポイントとして以下の項目が挙げられています。

(1) 経営トップが本気を示す~経営トップからのメッセージを繰り返し発信する~
(2) キーパーソンとなる担当者等を配置する~担当者・部署を通じて取組を浸透させる~
(3) WLB(ワーク・ライフ・バランス)管理職をつくる~管理職が理解し、率先して実践する~
(4) 積極的にコミュニケーションを図る~個人や家庭の事情を話しやすい風土をつくる~
(5) 「自分ごと」として考える環境をつくる~従業員一人ひとりを主人公にする~
(6) 組織ぐるみで生産性を高める~業務の棚卸し、見直し、改善を行う~
(7) 「よく働き、よく休む」を習慣化する~「休み」を明日の成果につなげる~
(8) 取組の進捗を「見える化」する~達成状況の可視化でモチベーションの向上を図る~
(9) 業界や顧客を巻き込む~社外の理解と協力を得る~
(10) 社外の施策を活用する~国や地方自治体等の表彰・認定等を取り入れる~

ここで挙げられたポイントは重要なものばかりです。これらをどのようにして具体的な方法に落とし込んで実行するか、ということが個々の企業に求められます。

2.企業内にも当てはまるソーシャルキャピタル的思考

アメリカの政治学者であるロバート・パットナムは1993年、著書「哲学する民主主義」の中で、イタリアでは北部の都市が南部の都市に比べて行政サービスに対する市民の満足度が高いことについて、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)が背景にあることを指摘しました。ソーシャルキャピタルとは「ネットワーク」「信頼」「規範」を基礎に協調行動が活発化することにより、地域社会の効率性が高まることを示す概念です。

これを企業に置き換えてみると、企業内のネットワークを通して、働く者の間で信頼が高まり規範が形成されることで企業の社内関係資本が豊かになり、協調行動としてのワーク・ライフ・バランスへの取組が活性化されると見ることができます。

この視点から前記10のポイントを見てみましょう。

(1)ネットワークの構築

まず、(1)経営トップが本気を示す、(2)キーパーソンとなる担当者等を配置する、(3)WLB(ワーク・ライフ・バランス)管理職をつくる、という点についてです。これらはいずれも、ワーク・ライフ・バランスの取組は組織が一体となって行うことが重要であることを示しています。ワーク・ライフ・バランスを経営戦略のひとつと位置付ける以上、経営者自らが先頭に立ち、真摯に取り組む姿勢を見せるとともに、担当者・部署を通じて浸透させる体制が必須です。

これらのポイントを実践することは、ワーク・ライフ・バランスという共通目標に向けた「やるぞ」という意識を組織全体に行き渡らせることにつながります。協調行動のために必要な社内の「ネットワーク」の整備と捉えることができるでしょう。

(2)社内における信頼の形成

次に、(4)積極的にコミュニケーションを図る、(5)「自分ごと」として考える環境をつくる、(6)組織ぐるみで生産性を高める、という点はどうでしょうか。積極的にコミュニケーションを図ることは、互いの事情に配慮し協力体制を構築するための第一歩となります。

たとえば、有給休暇の取得にあたっては、予め取得計画を立てて周囲に知らせるとともに、他人の業務を代行できる体制作りが必要です。「他人ごと」を「自分ごと」として考えることで、「信頼」を媒介とする風通しの良い職場風土が生まれます。

(3)規範に従った行動

(7)「よく働き、よく休む」を習慣化する。(9)業界や顧客を巻き込む、という点は、ワーク・ライフ・バランスの取組を「規範」として認識することにつながります。「規範」として認識されているからこそ周りの理解が得られ、誰しもが取組める内容になるのです。

他人の業務を代行できる体制作りとも関連しますが、「お互い様」という価値観が社内外に共通の「規範」となれば、長期の休暇も誰もが心置きなく取得できるようになります。そのためには、一人三役でお互いをカバーし合う体制の構築や従業員の多能工化などの体制作りが不可欠です。

(4)モチベーションを高める仕組み

このように見てみると、「ポイント・好事例集」で挙げられている10のポイントには、「ネットワーク」「信頼」「規範」というソーシャルキャピタルの要素が含まれていることがわかります。

しかし、これらの要素を基礎として企業の社内関係資本が豊かになったとしても、協調行動が継続しなければワーク・ライフ・バランスは実現できません。そこで、協調行動を継続させるために、(8)取組の進捗を「見える化」する、(10)社外の施策を活用する、ということが必要になります。

社内表彰などにより取組の進捗を「見える化」することで取組みの推進力が高まります。また、国や地方自治体等の表彰・認定など社外の施策を活用して会社の社会的評価を向上させることは、モチベーションの維持にもつながります。この他、取組を実行した場合の報奨制度なども有用です。

3.まとめ

ワーク・ライフ・バランス推進のカギは、その取組が協調行動として活性化されることにあります。ソーシャルキャピタルの視点からすれば、企業の社内関係資本の豊かさが協調行動に影響します。社内関係資本を豊かにするには、社内に風通しの良い「ネットワーク」を構築し、従業員の間で「信頼」が醸成され、一定の「規範」が形成されるような仕組みを作ることが必要です。

そして、その仕組みが生かさせるよう、モチベーションを維持する工夫も忘れてはなりません。

いかにして組織にワーク・ライフ・バランスの取組を浸透させ成果を得ることができるか――その答えは個々の企業の中にあります。パットナムの提唱したソーシャルキャピタルという概念は、ワーク・ライフ・バランスを推進しようとする企業にとって重要な示唆を与えてくれることでしょう。

記事制作/白井龍

ノマドジャーナル編集部
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