「働き方改革」が確かな潮流となってきた昨今、それに対応する企業のアクションはさまざまです。明確な意図を持って取り組みを実施している企業もあれば、なかなか新たなアクションを起こせない企業があるのもまた事実。「ウチの会社はなかなか変わらない……」と地団太を踏む思いでいる人も多いのではないでしょうか。

 

そこで本記事では、「個人が起点となる働き方改革」について考えてみたいと思います。経営や人事が主導しトップダウンで「始めさせられる」改革において、組織に所属する個人がキーパーソンとなって改革をホンモノにするには、何が必要なのか。そのヒントを得るため、外部コンサルタントとして企業の働き方改革に関わる株式会社アバージェンスの葛西幸充さんにお話を伺いました。

ハンズオンを超えた「ボディイン」のコンサルティングスタイル

Q:葛西さんは、外部コンサルタントの立場で企業の働き方改革を実践していると伺いました。その背景や方法を理解するために、まずはアバージェンスのコンサルティングスタイルについて教えてください。

葛西幸充さん(以下、葛西):

他のコンサルティング会社との大きな違いとしては、「プロジェクト期間中に定量的な成果を出すこと」を目指すべき指標としていることです。その指標は売上拡大だったり、コスト削減だったりとさまざまです。それが第一の特長です。

 

そうした定量的な成果を、いわゆる「マネジメント」を通じて「対象組織の方々の認識や行動を変える」ことで実現する。これが第二の特長です。

 

この二つの特長は、私たちがすべてのクライアントに必ずコミットするものでもあり、ここがアバージェンスのユニークさではないかと思います。

 

ただ、マネジメントを変える際に「これをやってください」という指示的なことは一切言いません。管理者が私たちからの質問を通じて、自ら考え、行動して、成果を出してもらうことを大切にしています。コンサル先では毎日必ず管理者とミーティングをしますが、少しずつ質問を投げかけます。管理者が主体性を持って考え、行動し、成果を出すことで自信が生まれ、継続性が生まれる。そのサイクルが欠かせないと考えています。

 

Q:「毎日必ずミーティング」とありましたが、クライアントとはどのような頻度・回数で関わっていくのでしょう?

葛西:

コンサルタントは基本的に、プロジェクト期間中、毎日クライアント社内にいます。期間が半年であれば、その間の平日はクライアントの最寄りにあるホテルで寝泊まりをし、どっぷりとプロジェクトに漬かります。「週に1回行きます」「月に1回打ち合わせをしましょう」といったスタイルではないんです。

 

Q:そこまでいくと「ハンズオン」というより「ボディイン」ですね。それだけの労力と手間をかけてまで、マネジメントを変えることにこだわっているのはなぜですか?

葛西:

そうしなければ、現場に染み付いた旧来のマネジメントや社員の行動習慣を変えることはできないですし、定量的な成果を短期間で創出することはできないからです。狙った成果が出ないのは、社員が自らの行動習慣を最適化できていないということであり、それはマネジメントが機能していないからだと思っています。そのマネジメントを機能させるには労力と手間がかかるのです。

 

Q:アバージェンスさんの手掛けるプロジェクトはどのように進むのでしょうか?

葛西:

まずは経営者と、「どこに注力するか」を握ります。働き方改革を例にとれば、生産性向上によってどんなアウトプット増加を目指すのか、どのように戦略的な人材再配置をするのか、などの方向性ですね。注力点を定め、そのために何をすべきかを因数分解し、トップからマネジャーへ、マネジャーから現場へとすべきことを共有していただくところから始まります。その後は、先ほどお伝えしたように「毎日、どっぷり浸かって」やっていきます。

ボトムアップだけでは変革を成し遂げられない

Q:一連のコンサルティングの中で、「働き方改革」が課題に上るのはどのようなときでしょうか?

葛西:

「働き方改革」といっても世の中にはさまざまな取り組みがあると思いますが、私が関わるのは「組織活性化」や「モチベーション向上」をテーマにしたものが多いです。課題として上るのは、業績好調による残業時間の増加、現場の疲弊感によるモチベーション低下や離職率の上昇などのような現象が少し表面化しているときだと思います。

 

実際に担当したあるプロジェクトでは組織活性化をテーマに掲げて、狙った成果を上げ、社内での横展開も始まっています。「組織活性化推進室」ができ、自走してさまざまな施策を実行できるようになりました。

 

Q:どのように組織へアプローチしていくのですか?

葛西:

組織活性化というテーマのプロジェクトの場合、その部署内で「どんな状態になったら組織が活性化していると言えるのか」というあるべき姿の議論をすることから始めました。例えば「議論が闊達に行われる職場」というキーワードが出た際には、「それは会議での発言者が増えればOKなのか、それとも議論のアウトプットが出ればOKなのか」と目指すべき状態を定めていきます。

 

その上で、「組織が活性化していない原因はなぜなのか?」を考えます。課長職以上の人に集まってもらい、真因を見つけるために議論するんです。議論した結果を社員の皆さんにも共有し、改善策を具体化していきました。

 

一方ではボトムアップだけでなく、トップダウンも織り交ぜていきました。前述の取り組みの裏側では毎週経営陣と作戦会議を行い、何かあったときにはトップが対応してもらうようにお願いしていたんです。施策を進めるにあたってはボトムアップだけでは厳しいのが現実なので、経営のトップダウンをうまく活用する必要があると思っています。

 

Q:なぜボトムアップだけでは厳しいのでしょう?

葛西:

施策を効果的に走らせるには、期限を切るなど、何らかのプレッシャーが必要です。ボトムアップだけだとこれがなかなか定まらず、期限が過ぎても物事がほとんど進んでいないということが往々にしてあります。社員が動かし始めた施策でも、それを形にするためには一定の強制力を持たせなければいけません。

 

経営側がそこに関心を持ち、プレッシャーを適度にかけるよう意識することが必要です。私たちは、2週間に一度は経営陣にもミーティングに参加してもらうようにしました。経営の関心が薄れていくと、プロジェクトもうまくいかなくなる。これは働き方変革を進めていく上での必須項目だと思っています。

 

Q:ボトムアップで動き始めたことに対して強制力を持たせることで、ハレーションが起きることはありませんか? 「自発性」と「強制力」の折り合いをどのように付けていくのでしょうか?

葛西:

多少のハレーションが起きたとしても、施策を前に進めていくことを重視すべきだと思います。人間は基本的に甘いので、しっかり期限や目標を定めておかなければ物事は進みません。また、ボトムアップで生まれたアイデアを形にして、動かしていくためにも、トップダウンが必要となる場合があります。自発性を制限するのではなく、より生かすためにトップダウンを活用するべきなんです。

 

施策を進めるためには、ある程度議論ができたところで「まずはやってみよう」と決めることも大切です。やってみなければ効果が分からない施策も多いはずです。100パーセントの効果が見込めなくても、トライアンドエラーを繰り返して動かしていく。やってみてうまくいかなければ、見直しもしやすくなります。

 

Q:トップとの関わりが希薄な状態では、ボトムアップで変革を起こそうとしてもうまく進まない場合があるということですね。

葛西:

そうですね。個人が組織に影響を与えるような何らかの施策を動かしたいと思ってもできないのは、トップに対して経営判断ができるだけの「メリット」「デメリット」を提示できていないから、という場合もあります。また、やろうとしていることに賛同してもらえる仲間をちゃんと作った上で、経営側に提言する。そんなプロセスも必要だと思います。

抵抗勢力の代表格を味方につけ、ときには「対峙する」ことも

Q:賛同してくれる人がいる一方で、抵抗する人も出てくるのが組織の常だと思います。葛西さんが企業へ支援に入る際には、施策に対する抵抗を予想していますか?

葛西:

まず前提として、「過半の人が反対するモチベーション関連の施策はやるべきではない」と考えています。ごく一部の人が賛同しない状態でスタートする施策はもちろんありますが。

 

そもそも、「モチベーションの源泉」は人それぞれに違います。アバージェンスではモチベーションを6通りに分類しています。「達成感」「貢献感」「成長感」「自尊感」「一体感」「所属感」の6つです。

 

人それぞれ、何がフィットするかは分かりませんし、組織のマネジャーのキャラクターによっても左右されるでしょう。モチベーションの源泉が違うので、全員に刺さる施策というものはないのだと言えます。

 

Q:実際に「抵抗する人」はいるのですか?

葛西:

例えば「情報共有不足によって施策やプロジェクトを誤解してとらえている人」が実際にいました。本当はプロジェクトに対して大きな期待を抱いていたのですが、自分がその中身に関われないことに対して大きな不満を感じていたんですね。その人とは週に1〜2回、個別にミーティングを行って理解してもらいました。味方になってもらったことで、他に抵抗していた人も味方に変わっていきました。

 

なぜその人がプロジェクトに抵抗しているのか、まずはその理由を傾聴し続け、信頼関係を作ることが必要だと思います。そしてプロジェクトに引き入れていく。「抵抗勢力の代表格を味方につける」というアプローチですね。

 

Q:中間管理職などでは、「改革が進むことで自身の評価が下がるのではないか」という懸念もありそうです。

葛西:

それは実際にあります。私たちのように外部から入っていくと、「自分ができていないことを指摘され、評価が下がるのではないか」と不安に感じる人が実際にいるんです。こうした誤解を解くための会話も丁寧に重ねていく必要があります。社内の人が改革を進める場合にも必要なプロセスでしょう。

 

他には「本質的にこのプロジェクトが嫌だ」という人もいました。ただでさえ業務が忙しい中で、上から訳の分からないプロジェクトが降りてくる、と。「自分にとっては迷惑なだけだ」というわけですね。支援期間中ずっと反発をしていて、取り組みを進めていてもネガティブなことしか言わなかったんですよ。

 

Q:そうした場合はどうやって対応していくのでしょう?

葛西:

「対峙する」ことが必要です。その人の主張はものすごく論理的だったので、「主張する内容の根拠が間違っている」「ファクトベースで間違っている」と真正面から指摘して、対峙しました。それでもなかなか理解してもらえなかったので、プロジェクト終盤で「あなたの部門だけがこのままだと変われない。それでいいんですか?」とぶつけたんです。

 

こういう人は、変わるときはものすごく早いんです。終盤の2週間でガラッと変わり、今では改革の中心的な存在として活動を続けてくれています。

 

ただ、こうした「対峙」を1人でやるのは限界があります。私の場合は、その人が尊敬する上司の何人かにも同じように対峙してもらいました。論理的な説得だけでは人は動かないので、感情にもアプローチしなければいけない。「この人を動かすためにはあの人が必要だ」という具合に考え、実際に動いてもらうわけです。

 

自分のための改革を「組織や社会のため」という視点へつなげる

Q:そんな風に改革を進めるためのキーパーソンに自分自身がなるためには、どのようなことが必要だと思いますか?

葛西:

まずは自分との対話が必要だと思います。先ほどお話した6つのモチベーションの源泉の中で、改革のキーパーソンになるのは「貢献感」が高い人。自分の達成感や成長感だけでなく、貢献感に喜びを見出だせるかどうかを問いかけてみるべきです。

 

例えば「副業容認」を実現するために社内で動き始めるとします。それを実現することで、自分や会社のメンバー、ひいては顧客もハッピーにできるかどうか。考え、語り、共感してもらえる仲間を作っていくのです。その輪の中に経営陣がいれば望ましいですね。議論が具体策となって実を結ぶ可能性が高いと思います。

 

Q:「組織のために」という思いを当たり前のように持てる人が、キーパーソンになれる人である、と。

葛西:

そうですね。改革をするキーパーソンには、「for組織」はもちろん、「for社会」という思いも必要です。ただし、そもそもの動機がそこになくても一向に構わないとも思います。

 

最初は自分だけのことを考えて改革に動き出すこともあるでしょう。大切なのは、「『組織や社会のため』という視点に変わっていかなければ人は動かせない」ということです。

 

株式会社ワーク・ライフバランスを創業した小室淑恵さんのエピソードはまさにそうだと思います。ご自身が子育てのために仕事復帰ができなかったという経験から、同じような悩みを抱えている人が他にもいるのではないかと考え、その社会課題を解決するために会社を立ち上げた。

 

自分が抱える悩みや課題を同じように持っている人が社内にいるのであれば、そこには解決のニーズがあります。共感してくれる人もきっといるはずです。何か新しいことを始めれば必ず抵抗や摩擦が起きるものですし、場合によっては野次を飛ばされることもあるでしょう。そんなときでも、自分の「貢献感」が明確になっていればくじけずに進んでいけるはずです。

 

取材協力:株式会社アバージェンス
http://avergence.co.jp/

取材・記事作成:多田 慎介

プロフィール:葛西幸充さん

プラウドフットジャパン(アバージェンスの前身)、シグマクシスPwCコンサルティングを経て、2016年にアバージェンス入社。コンサルタント歴14年の中で、新規事業モデルの構築やグローバルマーケティング戦略の立案、BPR、経営管理の高度化など経営課題解決を幅広く経験。組織活性化や営業改革、生産現場改革、マネジメント改革を通じた収益改善のサポートを得意とする。