安倍内閣によって「一億総活躍社会」の実現が提言され、その実現に向けて「生産性の向上による長時間労働の是正」や「非正規雇用の待遇改善」を具体策とする「働き方改革」の計画が策定されました。

従来より日本の企業の生産性は欧米の企業よりも低いと指摘されていることや長く続いたデフレ不況による企業業績の悪化もあって、生産性の向上が重要なテーマとして高い関心を集めています。さまざまな対策を実施する企業が増加していますが、なかには間違った対策を行って生産性を逆に悪化させている企業も少なくありません。

そこで、このような間違いをしないために間違っている生産性向上対策を紹介します。

部分最適を優先し、全体最適を考慮しない間違い

仕事が早い人にたくさんの仕事をまわす生産性向上策の罠

例えば、社員のなかには同じ業務を早くこなすと人たちと遅い人たちとが混在します。

一般的には仕事の速い人たちは、遅い人たちよりも生産性が高いのは明らかです。そこで、生産性を上げるために仕事に早い人たちに業務をどんどん集中させる対策を行います。一定時間内に処理できる業務量は、均等に業務を割り振るよりも全体の業務処理量は一時的に増加します。

しかし、給料が同じであれば仕事の速い人には不満が出てきます。また、業務の処理が遅い人はいつまでも業務の処理が遅くて仕事のできる人が退社をすると生産性の大きな低下を招きます。

結果的に、退社しなくても給料が同じなら仕事が速かった人たちも遅くなって、全体としては生産性が低下します。

一部の人ではなく組織全体の生産性を上げる対策を考えることが重要

このように一見、合理的と思える生産性向上のための対策も全体で考えるとかえって生産性を悪化させる可能性があります。生産性の高い社員に業務を集中させる前に、組織全体の生産性を上げる対策として、社員教育や業務ノウハウのマニュアル化などをすすめる必要があります。そのうえで臨時的な対策として一部の業務を早く処理できる社員に任せます。業務量に多くなる社員には給与や職位などの待遇面を検討すれば、業務量が多い社員のモチベーションを高いまま維持できます。

全体問題を優先し、個別問題を考慮しない間違い

次に取り上げるのは、全体の問題を解決するために行った対策が、実は個別問題でないと解決できない問題で全体問題として行った対策のためにかえって生産性が悪化する対策の例です。

生産性向上にみえる一律残業代カットという利益創出の罠

例えば、残業代が売上に対して多いからという理由で一律に残業代をカットすると、一時的には売上が同じであれば、同じ売上を上げるために経費は少なくなって生産性が向上します。

しかし、実は売上が競合や需要の低下などの要因で落ち込み、その結果残業代が売上に対して多くなっているのであれば、安易な残業代カットは社員のモチベーションも低下させて、さらなる売上低下を招きます。

その結果、いつまでも売上に対する残業代の比率は低下しないだけでなく、シェア低下でその市場から撤退しなければならなくなる可能性も生じます。

残業しないと仕事が終わらないという状況の根本的な原因解明が必要

なぜ、残業代が売上に対して多いのかの本質的な原因が無駄な残業にあるのか、それとも別の要因かを調査してからの対策でないと間違った対策をしてしまいます。場合によっては、一定のシェアを維持しないと市場から撤退もあり得るほどであれば、残業代を増やしてでも頑張って、その間に本質的な問題の対策をしなければなりません。その場合、まったくの逆の対策が正しい対策となります。残業代の一律カットは多くの企業で採用されます。

一律カットは上記の問題のほかに部門ごとに問題の大きさが異なるのに全体に対して一律にカットする問題もあります。例えば、売上の低調が、商品の仕様・性能が競合他社に負けている、あるいは商品ラインアップが不足しているのであれば開発部の残業代カットはより大きな問題を招きます。逆に、営業力で負けているなら営業部隊の残業代カットは大きな問題です。問題の原因がどこにあるのかを調査して必要な部門の残業カットはしないで他部門を多くカットするなどの対策をしないとかえって生産性は低下します。

目的と手段を取り違える間違い

生産性の向上といっても多くの企業では、即実行に移せるような対策は出てこないのが一般的です。

生産性を向上させるという目的意識が強いと問題点の洗い出しを行うために会議を何度も行う間違いを犯します。会議を行うこと自体は、そこでの議論が有意義であれば問題ではありません。しかし、一般的に常に問題意識を持っていない企業では、急に問題意識を持て社員に要求して会議を開催しても多くの場合は、義理で出席しているような社員が多く議論は活発に行われません。

それに対して、経営幹部が対策を出せと命じると、社員には会議を開催すること自体が目的になって会議を開催していれば生産性向上のためになっているという勘違いが生まれます。

本来は生産性向上の対策を作成することが目的で会議はその手段でなければなりません。生産性の向上のような地道に行うべき対策は常日頃から社員全員が意識していなければ良い対策は生まれません。そこを勘違いすると、会議を開くことが目的になって、単に会議が開催されるだけで有意義な対策は決して生まれてきません。

まとめ

生産性の向上は、常に意識しておかねばらない重要な経営テーマの1つです。そのようなテーマに対して生産性向上のために急に何かを行うとすると、ここで紹介したような間違った対策をしてしまう可能性があります。

ここで紹介した間違い事例はごく一部です。生産性の向上は、経営が厳しいときやブームの乗って行うものではありません。経営状況の良いときも行うべきものです。間違い事例を参考に、今後は生産性の向上を企業の文化・社風にまで高めると努力を行うと間違った対策を行うことはなくなるでしょう。