新規事業担当の人材育成については多くの企業が頭を悩ませているテーマです。

多くの企業は、既存のビジネス以外で、新しい事業のための参入機会、投資機会を模索しています。しかしながら、「いつも同じ経営陣からだとアイディアが画一的で、知らず知らずのうちに既存のビジネスの枠にとらわれてしまっている」「新規事業はどこから手をつけていいのかわからない」といった意見も多く寄せられてきます。

新規事業担当者は、まずは新規事業の種をどうみつけるのか?リサーチはどのようにしていくのか?どうやって儲けるのか、ビジネスモデルをどのように構築していくのか?数字の組み立て方は?組織の作り方は?多くの疑問に頭を悩ませます。

今回は、新規事業の考え方やよくある担当者の悩みについて、様々な企業の依頼にこたえている新規事業のビジネスノマド守屋さん、竹居さんにお話をお伺い致しました。

アイディア出しの第一歩は、企業が自分を知る事

Q:最近は企業からの新規事業の支援ニーズも強いでしょうか?

問い合わせは多くいただきますね。アライアンス先の検討や事業領域のリサーチ、ビジネスモデルの壁打ち相手も含めて問い合わせをいただきます。

専門家が便利なのは、おそらくその領域の第一人者というよりも、たとえば私(守屋実氏)であれば、ヘルスケアの領域であれば、遺伝子治療から腸内細菌といった先端的な領域から、在宅医療や予防医療まで、それぞれの会社の役員という形で現在進行形でかかわっていたりするので、幅広い領域についてまず検証をしやすい、リサーチもしやすいのと、フットワークの軽さを見込んでまず進めてみる、というのがあるように思います。

大きく組織を動かして、新規事業の方向性を定める手前の検証に使うというようなイメージでしょうか。

Q:そうですね。多くの企業はいきなり領域を定めて組織化して走ってしまったり、逆に検討に時間をかけすぎたりしますが、「まず何から手をつけていくか」といった進め方を含めた検討に入っていくイメージですね。

なぜ新規事業を始めようと考えたのかの理由が大事です。既存ビジネスとは異なる全く新しい領域に行くのか、本業を強化するための周辺新規事業なのか。人材育成的な要素を入れる会社もあります。どの程度の規模のビジネスに育てたいのかも重要な要素です。
目的が明確であれば、次の議論がしやすくなります。事業ドメイン、経営資源、課題、強み、弱み、保有資産等から可能性を探っていきます。

新規事業を立ち上げる手法も並行して考えると思考の幅が広がります。純粋に自社資源で立上げるのか、M&Aや業務提携をからませていくのか。立ち上げるスピード、成功確率、リスクリターンの観点からそれぞれの手法を検討するとより具体的な議論に入っていけます。

人材育成の観点が強いときは、社内新規事業コンテストの運営方法を詰めていったりするケースもあります。

Q:「新規事業のアイディアをどうするか」という点、もしくはトップダウンでいわれた新規事業の「そもそもその領域でいいのか?」といった検討も重要ですね。

アイディアを考える時の思考回路は、対象範囲が広すぎると逆に考えづらくなります。「何でもいいから新規事業を考えろ」と言われても何から手をつけていいかわかりません。そもそもどんな企業も「何でもいい」はずはないのです。

商売センスのあるオーナーが色んな分野でコングロマリット的に事業を成功させているケースはありますが、普通のサラリーマンにそういう発想を求めるのは無理があります。

本業で培った資産やノウハウ、企業文化など何らかの武器が生かせる範囲を定め、その範囲をベースにアイディアを練った方が、逆に沢山発想が湧いてくるのではないでしょうか。
だからアイディア出しの第一歩は、企業が自分を知る事です。自分を正しく知るのは実は一番難しいので、外部のディスカッションパートナーを入れるのも有効です。

市場調査、外部の識者へのヒアリングは効率的に

Q:市場調査のやり方もいろいろあると思いますが、こちらも会社によってまちまちですね。

最近も大手企業の幹部候補生の研修でも、市場調査からやってもらったケースもありますが、市場規模把握、将来予想、競合調査などはチームごとに精度がまちまちで、こういったところの教育は意外となされていない。

新規事業の対象市場は多くの場合、市場データなどが整備されておらず、様々な予測を組み合わせて考える必要があります。絶対の解は出ませんが、ある程度確度の高い予想値(幅でよい)を掴む手法は理解しておくべきです。

市場調査というけど市場の範囲自体、人によって別のものを浮かべがちです。
例えば「外食市場」という言葉はとても曖昧ですよね。ファミレスや居酒屋は「外食市場」のど真ん中イメージですが、仕事の合間のランチでコンビニのおにぎりを食べるのは「外食市場」に入るか入らないか、社員食堂で食事するのはどちらか、いずれもケースバイケースです。つまり入り口の市場の定義自体を明確にしないと後で議論がかみ合わなくなります。

市場調査や競合調査もいたずらに時間をかける余裕はありませんが、限られた時間と情報元からいかに導き出していくか、一定の思考訓練が必要です。

Q:外部の識者へのヒアリングなどもよく実施されています。短い時間で効果が得られる非常に効率的なやり方ではあるものの、こちらもヒアリング方法によって効果はまちまちだったりしますね。

ヒアリングは簡単そうに見えて非常に難しいです。
1時間のヒアリングの効果は数千万にもなれば紙クズにもなります。何も準備せずいきなり識者に会っても時間の無駄におわります。ヒアリング前の準備段階で、自分達が聞きたいことは何か、相手が精通している(と思われる)ことは何か、考えておかねばなりません。
しかも恐らく相手はこう答えるだろうという仮説まで描いておきます。仮説をもっていれば、相手の答えが仮説と違う時にそれをフックとして深い会話に踏み込んでいけるからです

相手のペースで話されすぎると聞きたいことが聞けませんが、会話は流れも大切なので、ほどよく気持ち良くしゃべってもらいつつ、ペースはこちらで握ります。
礼儀とか相手が話しやすい雰囲気とか、自分達だけで通用する閉じた言葉を使わないとか、基本的な部分で注意する事も沢山ありますね。

事業計画の策定。説得力のあるストーリーと数字で語る

Q:次に事業プランを固めていっても、全然儲かるイメージがなかったりします。

最初に作ったプランでいきなり儲かるイメージはないのが普通です。そこからがスタートですよね。儲からない理由はレベニュー側の問題かコストサイドの問題です。それぞれどのような突破方法があるかつぶしていきます。

ビジネスモデル、対価の取り方などを抜本的に見直すには、全く別業界の第三者などと壁打ちするのも有効です。守破離の「離」の段階に近いイメージでしょうか。特に同じ会社の同じ価値観を持つ人同士で進める企画は、第三者の知見もいれたブレークスルーを何度も試みるのをお薦めします。

Q:事業計画をまとめて説得力のあるストーリーと数字で語る必要もありますね。

ストーリーと数字は表裏一体で不可分です。ストーリーを数字に落としてみて「こんなに儲からないのか」とがっかりして、またストーリーの見直しに戻ったり、数字を組み上げていく中で新たなビジネスモデルが浮かぶこともあります。両者を行ったり来たりして、事業の骨格を磨いていくのです。

したがって、アイディアを練る人は数字を他人任せではいけません。新規事業の数字の組み立てに特に深い経理の知識はいりません。PLとキャッシュフローの違い、損益分岐点ぐらいわかっていれば十分なので、知らない人はちゃんと学習して自分で作成してみた方がいいです。

例えば立ち食いにして食材をリッチにしているレストランなどは、アイディアを実際の数字に落として何度も検証している筈です。原価、回転率、客単価などの変数に対して、利益が最大化する均衡点を見出しているのです。

Qいわゆる新規事業を創ることのできる人材についてはどのように仕組みに落としていくのか、研修のような形で担保することができるのか、多くの企業が人材育成のために実施している新規事業担当者の育成研修については果たしてどの程度効果があるのでしょうか?

研修については新規事業塾のようなものを最近提供していますが、各企業において、新規事業担当者の育成のニーズが高まっている中、適切な育成方法に解はありませんね。

いわゆるケーススタディやファイナンス、マーケティング、マネジメントに関する座学が中心になる傾向が多い中、チームを組んでステップに分けて事業計画を考えてアイディアから実際に新規事業をつくってみる研修なども実施しています。

チームごとに事業計画を策定し、さらに各事業領域の専門家のアドバイスの機会も盛り込んで外部の知見も活用しつつ、ところどころでチームをシャッフルして事業案を組みなおしたりするなどの戦略性を取り込んだかなり特色のある新規事業研修の取組です。これらは、能動的に知見を獲得していくことができ、新規事業をどう作っていくかが実際に肌感覚でわかる点で効果的だと思っています。

会社の文化や社員の特性によって異なりますよね。アイディア出しが得意、実行が得意、組み合わせ(提携のような)が得意など、色々あります。自分達の型が何か試行錯誤しながら、より適切な方法を探していくのではないでしょうか。

一方で新規事業は議論ばかりしていても進まないし、どんなに立派な市場調査をしてもやってみなければ分からないものです。だからスタート段階から立派なプランを練り上げるのでなく、何か光るものがあって一定の条件をクリアしたらやらせてみる勇気も大事です。研修の学びだけで終わらず実際に動きだす。実行フェイズと連動させながら、「学ぶ→実行➡実行→学ぶ」みたいなサイクルを進めるのが有効ではないでしょうか。

実行に際しては、メンバー、体制、投資限度額、権限、本社による管理などをどのように按配するかも、企業内新規事業においてはとても大切です。

専門家:守屋実

1992年に株式会社ミスミ(現ミスミグループ本社)に入社後、新市場開発室で、新規事業の開発に従事。メディカル、フード、オフィスの3分野への参入を提案後、自らは、メディカル事業の立上げに従事。2002年に新規事業の専門会社、株式会社エムアウトを、ミスミ創業オーナーの田口氏とともに創業、複数の事業の立上げおよび売却を実施後、2010年、守屋実事務所を設立。ベンチャーを主な対象に、新規事業創出の専門家として活動。投資を実行、役員に就任して、自ら事業責任を負うスタイルを基本とする。2015年現在、ラクスル株式会社、ケアプロ株式会社、メディバンクス株式会社、株式会社ジーンクエスト、株式会社サウンドファン、ブティックス株式会社、株式会社SEEDATAの取締役などを兼任。

専門家:竹居 淳一

株式会社SUSUME代表取締役。1994年、新日鉄に入社。その後、経営コンサルティング会社を経て、ベンチャー企業の経営企画室長として経営戦略、新規事業、経営管理などに携わる。2004年からはエン・ジャパン㈱の経営企画室長として、多数のM&A、新規事業立上げを行い、2011年から中国上海の人材紹介会社へ出向、COO更にCEOとして事業を拡大。2015年に帰国後、株式会社SUSUMEを設立し現在に至る。

ノマドジャーナル編集部

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