NPO法人Totie(トティエ)の大塚一歩さん

 

小豆島(しょうどしま)は瀬戸内海に浮かぶ離島。人口約28000人、面積約150k㎡。瀬戸内海では淡路島に次いで2番目の大きさだ。小豆島には、先代から引き継いだ木桶仕込みの醤油と佃煮、ごま油を使った素麺、瀬戸内の光を浴びて育ったオリーブを中心とした食品産業と、海・空・山の大自然や小豆島八十八ヵ所霊場などを活かした観光業とがある。伝統ある地場会社が島の基盤となり、【地方創生・小豆島】で紹介してきた企業を始めとする新たな挑戦を続ける企業が一定数存在。その上に近年、若者・子育て世代を中心に移住者が増加。年間約250人という人口のおよそ1%に当たる数が移住しており、オシャレなカフェや面白いプロジェクトなどが生まれている。

 

首都圏への人口・商業施設の集中から脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、人気のある離島ではどのような地域づくりが行われているのだろうか?そこで、小豆島へ6年前に移住した筆者が、小豆島で活躍する企業・事業・人について取材・発信していく。

 

第12回では、昨年小豆島に移住されたキッチンUCHINKUのオーナー西本真さんと、移住・定住を促進するNPO法人Totie(トティエ)の事務局長、大塚一歩さんにお話を伺いました。

 

後編では、移住・定住を促進するNPO法人Totieの事務局長、大塚一歩さんに、地方へ移住する側、受け入れる側、双方の現状や課題、今後の展望について、お聞きしました。

Q:現在の移住者の動向はどんな感じなのでしょうか?

2016年度は、小豆島町・土庄町の転入において所謂Iターン者が250人を超えています。関東圏の方が多く、次に多いのが関西圏の方。都市部での環境や、震災以降に地方がクローズアップされる事が増え、自分たちらしく地方で暮らす事を模索していく中で、瀬戸内国際芸術祭などの露出がきっかけとなり小豆島に引っ越してくる場合が多いですね。ファミリーと単身者の割合はだいたい6:4、世帯としてみるとご家族で移住される方がやや多いです。

 

移住した方で店舗を開く方も増えており、今年OPENしたお店は、まめまめビールさん、うすけはれさん、MINA.UTARIさん、UCHINKUさん、TODAY IS THE DAYさん、さん等になります。目立つのは店舗をされる方や事業を立ち上げる方ですが、全体として見ると多くはなく、就業可能な方の9割以上は島の企業に就業し、会社の一員となって島を支えています。定住率の暫定調査を小豆島町が行ったところ、7割くらいの方は3年を過ぎても島に住み続け、定住しているようだ、という結果も出ています。

Q:移住・定住をサポートする際に、どういう事を大切にされているのでしょうか?

都会に住む人からすると「地方移住」「田舎でていねいな暮らし」という、今の地方の見え方はキラキラとしていて良く感じると思うのですが、自治体プロモーションやメディアが良いフィルターをかけ過ぎているかなと感じます。いい事もあるけど、都市部での生活以上に頑張らないといけない事もたくさんあります。自分たちの理想とする暮らしを目指しつつも、半分は現実的な視点を持っていないと生活していくのは難しい。

 

例えば、都会で人とのコミュニケーションが取れなくて、だから島へと思っている方がいるとします。場所が変わっても、自分自身は変わらないために、いまの場所で起こっていることと同じことは起こり得ます。結局「その人」がどうかというところに行き着くので、他力本願の方にとっては、せっかく理想を抱いている地方移住も茨の道になってしまうかもしれない。また、小豆島への良いイメージからか、カフェをやりたいという相談も多いですが、現状としては、島内のカフェは飽和状態に近いこともあり、観光客相手だけだとやっていけない。それを踏まえて、自分たちの暮らしをどうデザインするか。現実的思考、コミュニケーション力、サヴァイブできる力の3点がベースにあり、それに加えて直感力+勢いがある方が移住し、定住へと繋がっている傾向にあると思います。

 

私たちは、地域文化・産業を維持するという大きな目的のために活動している面もありますが、一方で移住の相談をする方の人生も背負っている。そう考えると、安易に「移住良いですよ」とは言えないですね。2010年の瀬戸内国際芸術祭以降、移住者数・相談件数は一定の数字で推移していますが、数だけを見てしまうと道を誤るので、それぞれの暮らしがどうかというところは気にするようにしています。「盛った」表現や過度のプロモーションをするような「地方移住ブーム」からは少し距離を置いて、地に足の着いた活動をするように心がけています。

 

移住のサポートの中身としては、家や仕事に加えて、「人」を紹介することも大事だと思っています。勝手が分からない土地での新生活は不安なことだらけだと思いますが、島で普通に暮らしている人との交流が増えていくと楽しみが増える。島の企業に入ったはいいが、会社の外でのネットワークが出来ないと、離職=島を離れるということになってしまいます。人と繋がることは定着率を高める重要な要素ですので、Totieにご相談いただいた方には、できるだけその接点を作ってあげたいと思っています。

事務所は、神戸からのジャンボフェリーが到着する坂手港が目の前。

Q:今後の展望はどんな感じでしょうか?

小豆島は両町共に、高齢化率が平均でも40%近く、出生率も1.5~6程度、人口減少率3%近くと、1ミリも楽観視できない状況です。それに加えて20年後には、いま頼りにしている団塊の世代がスポッといなくなる。それまでに、行政任せではなく、住む人それぞれが自分たちの地域でできること考えて実行していかないと、地域の維持が難しくなると考えています。地方の財政予算が縮小する中、町の予算を移住促進ではなく、他の分野に回した方がいいのでは、というご意見をいただくこともあります。日本全体の生産人口が減少し、各地で人を取り合う状況が生まれつつある中で、この地域へ移住だけではなく関係人口も含めた人の流れを作っていくことが、将来の産業・文化を守る礎になると思いますので、地域の方々へご理解していただく活動も含めて、今後取り組むべきことは非常に多いと思っています。

 

また、私個人の意見としては、移住者だけを増やしたいわけではありません。現状は、小豆島が移住先として人気が高いので、Iターン促進の活動が主となっていますが、将来的には関係人口や、Uターンできる島づくりを並行して整えていくことも重要だと考えています。

ただ、これに関してはTotieだけでは難しい部分が多いので、他の団体や協力者と一緒に「小豆島・豊島の強いファン」や「島に帰りたいと思ったときに帰れる」環境づくりを、僕ら世代の大人が作っていかないといけないですね。

 

≪取材を終えて≫

島でうまくやっていける人は、自分で動いていける人、無いものでなく有るものに目を向けられる人、地元のいい所を見られる人だと思います。私自身は小豆島に引っ越して7年目になりますが、その間に色々な人と出会ってきました。最終的には、人と人。一緒に暮らしたい人なのか、一緒に協働したい人なのかに尽きると感じています。7年の準備期間を経て小豆島に移住された西本さん。すぐに地元に馴染み、地元と協働したプロジェクトに関わっています。次回の【地方創生・小豆島】最終回で、詳しくお伝えします。お楽しみに!

専門家:城石 果純

株式会社DaRETO代表取締役。1984年愛知県生まれ。小豆島在住、リクルート出身の3児の母。
24歳で母親になり「自然がある場所で子育てしたい」と思うようになり、2011年に小豆島に家族で移住。3年間高松への船通勤を経て、2016年個人事業主として独立。2017年株式会社DaRETOを起業。現在は、しまの塾・企業研修・各種ワークショップ開催を通し、地域の課題を地域で解決するスキーム作り「知の地産地消」に取り組んでいる。